458話 投げるべし 02
「《騎士》は───まあ、『変わり者』だな」
「え?」
「基本的に、『面倒臭がり』だ。
不意打ちはアレにしても、大抵は嫌そうな顔でやって来る。
”別に戦いたくないが、命令だから仕方ない”、ってな感じで」
吸殻を携帯灰皿に押し込みながら、竜が言う。
「そのくせ、いざ始まったら喜色満面で大暴れだ。
しかも、命懸けだと分かってて尚、どこか『遊び』を残している。
楽しんでやがる。
だから、負けても最期は笑って死んでゆくんだよ」
「笑って??」
「ああ、そうさ。
今際の際で笑う奴なんか、《騎士》以外にいないな。
”くたばってこその人生”、とでも達観してんのか。
それすら、どうでもいいのか」
「・・・・・・」
「勿論、これは《竜から見た騎士》に過ぎないからな。
本当のトコロは、《本当の騎士》に訊くしかないだろうよ」
「本当の・・・もしかして、他の国にも《騎士》っているのか?
文化勲章的なナイトの称号、とかじゃなくて」
「あ〜〜、まあ、その───いるといえば、いるよ。
なんなら、紹介してやろうか?」
「え」
「ここに呼んでやるからさ。そいつと、じっくり話してみたらどうだ?
俺はちょっと、ラースベルグに挨拶してくるぜ」
「え」
呼ぶ、って、おい。
そんな近場にいんの、その《騎士》は?
車を飛ばしてくるのか?
それとも、馬に乗ってか?
呆気に取られている間に、竜は裏手の厩舎を目指して歩き出し。
オレはただ、呆然と立ち尽くしたままその背中を見つめるだけだった───
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「いやはや───これはいいな!」
ジョッキの中身を、たちまち飲み干して。
その男は、ニンマリと笑った。
「陽の高いうちに飲るエールは、最高だよ!
君、もう一杯頂けないかね?」
「あ、ああ。ちょっと待ってく・・・ださい」
差し出された空ジョッキを受け取り、テーブルを離れる。
エールじゃなくて、ビールなんだけどな。
確かエールって、発酵のさせ方が違うんだろ?
そんなに冷やすもんじゃない、って聞いたことあるし。
ともかく、ビアサーバーからお代わりを注ぐ。
爺ちゃんは旅行でしばらく帰ってこないから、今は使い放題なんだけどさ。
オレは酒飲みじゃないし、あんまり上手く注げないぞ?
───ものの5分で訪ねて来た《騎士》は、確かに『変わり者』だった。
ポマードか何かで丁寧に撫で付け、流した黒髪。
目が痛くなるほど真白い、プリーツが入ったシャツ。
それも、袖口を絞って肩から二の腕を膨らませた、超・クラシックなやつ。
首元には、刺繍が施された赤いスカーフ。
サスペンダーで吊った、シャープなシルエットの黒スラックス。
唇の上には、くるん、とカールした細髭が乗っかっている。
加えて、思わず笑ってしまうような自信満々の、コミカルな表情。
これでもかとばかりに、徹底されてるよ。
分かり易いこと、この上ない。
誰がどう見たって、喜劇役者だろ。
それか、『喜劇役者のコスプレ』だ。
───けれど、少しも弱そうには感じない。
───身長はオレと同じくらいだし、向こうはかなりの痩せ型なんだが。
体型とか年齢とか関係無しで、この男をどうにかできそうに思えない。
庭先に置いた、あの『岩』と同じだ。
押すも引くも、殴るも蹴るも、まるっきり通じそうにない。
その上、あれだよ。
凄く似合いそうなんだよ。
この男が馬に乗ってるところを、想像したらさ。
滅茶苦茶カッコ良さそうなんだよ。




