453話 一筋の糸を 06
「まあ、喧嘩しなくて良かったよ。
俺としては、敵視せず仲良くやってほしいところだがな」
「・・・仲良くは・・・したいと思う」
「お」
これは意外。
どうした、急にそんな素直に。
腹でも痛いのか?
「もちろん、らんきんぐ一位は狙うけど。
カノントワルとケンカは、したくない」
「どうしてだ?
料金が発生しないなら、理由を知りたいんだが?」
「・・・たばこ、一本こうかんして。
それで手をうつ」
「おう、いいぜ。
たまにゃメンソールってのも、悪くない」
俺の愛飲品を差し出し、替わりを受け取って火を灯す。
細くて『巻き』が固い分、吐いた時の煙の量は普段の半分くらいだな。
しかし、思いのほか、メンソール以外の味や香りも、しっかりしている。
「きつっ・・・でも、今のきぶんにちょうどいい」
「そりゃ良かった───で?」
「・・・《蜘蛛好き》とは、あらそいたくない」
「ほほう」
「『地上かいの蜘蛛』と『悪魔の蜘蛛』は、直接かんけい無いけど。
仲間いしきは、あるから」
「俺にとっての、竜族みたいなもんか」
ドラゴンと地上の竜族では、発生起源が全く異なる。
こっちは悪魔で、あちらの区分は伝来の妖族。
それでも共通点は多いし、無関係だとは思えないんだよな。
「そもそも、どちらの蜘蛛も、みんなに好かれない」
「──────」
「嫌われもので、ゆうめいで。
無視されるとかは、まだいいほう。
なんにもしてなくても、目があっただけで、したうち。
『きもちわるい』って、ゆわれる」
「──────」
「地上かいの、ふつうの蜘蛛たちは、とくにひさん。
悪魔とちがって、人間のすがたに変われないから。
『かわいい』とか『きれい』とか、そんな言葉は一生、もらえない。
うまれた時から嫌われて、嫌われたままで死んでゆく」
瞼を閉じ、ゆっくりと煙を吐き出すリーシェン。
「キースも、カノントワルも、ほんものの《蜘蛛好き》だから。
あらそうことは、できない。
それどころか。
ほんとうに『いざという時』は、わたしが守らないといけない。
優しさには必ず、優しさでかえすべき」
「───そこまで言うほどなのか。《蜘蛛好き》に対しては」
「あたりまえ。
それをしなかったら、あびさる・すぱいだーを名乗る資格もなし」
「ふうむ」
「・・・あ。
いいわすれてた事が、ひとつ」
「うん?」
「はじめて会った時に、だけど。
キースのすばやさを、5上げておいた」
「は??キースの??
『5』って何だよ、『5』って」
「だいたい、5くらい」
「だから、それってどれくらいなんだよ?」
「そこのテーブルの、端から端くらい」
「いや、分かんねぇよ!」
「はあ・・・ゔぁれすとは、こういう才能が、ぜんぜんない」
「どうしてこの流れで、俺が侮辱されるハメになるんだ!?」
それも、何の才能だか不明なままで!
俺は、特に蜘蛛が好きってわけじゃないが。
アジトに押し掛けてくる度、デザート食わせてやってんだぞ?
もうちょっとくらいは、言動を柔らかくしろよ!
それこそ、奈落の蜘蛛の名に懸けて!
・
・
・
・
・
・
・
応接室にキース達が戻ってきて。
せっかく4名いるんだから対戦ゲームをしよう、とリーシェンが言い出した。
いつの間にやら勝手に持ち込まれていた、某家庭用ゲーム機のスイッチON。
ソフトは、『ハッスル・カート Revolution Ⅴ』。
老若男女、みんなに愛されるレースゲームの、最新作である。
夢中になってくると声が出て、体が傾くやつだ。
───そして、ランダムコース10周を走行した結果。
リーシェンから、数々の嫌がらせアイテムで狙い撃ちされた俺を助けようとし。
そのせいで頻繁にコースアウトを余儀なくされたカノンちゃんが、最下位。
そのカノンちゃんをフォローしようとしてハマったキースが、三位。
非常に申し訳ないのだが、その隙間を縫う形になった俺が、二位に滑り込み。
憎たらしいほど完璧にブッちぎった『意地悪な蜘蛛』が、堂々の一位だ。
───どうやら、リーシェンの言う『いざという時』は、今日じゃないらしい。
まあ、あれだ。
夕食を待つ間の暇潰しには、丁度良かったよ。
だが、納得はいってないぞ。
食べ終わったら、もう一勝負やろうぜ。
次こそ、本気になった俺の超絶ドライビングを見せてやるからな!!




