451話 一筋の糸を 04
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「やっぱり、何というか、こう。
他の生き物とは、《生き様》みたいなのが違うんだよなぁ」
「ああー、分かります!
蜘蛛って、世界が広い事を知っていて。
でも、その上で巣を作り、《小さな自分の世界》を完成させようとして」
「俺にはそれが、冒険者みたいに思えるんだよ。
船に乗り込み、大海原に漕ぎ出してるようなさ。
だから、見掛けるとつい、応援したくなっちまって」
「たしかに!
雨上がりに、銀色の糸の上で水滴を付けた蜘蛛が、とっても綺麗で!
”大変だったね、でもお日様が出たから大丈夫だよ”、って話しかけるんです!」
───夕刻、アジトへ戻ってきたキース達。
確認した限りじゃ、ミュンヘン市内で奇天烈な事件は発生していないようだが。
それでも、『リーシェン絡み』でNoイベントってのは有り得ない。
うむ。
やっぱり、ちゃんと『予想外』だな。
まさかの《ロリコン殺し》様が、御登場だ。
お客様付きで帰ってくるとは、全く想像していなかったぞ。
「───それで?
《勝負》とやらは、どうなった?」
「・・・してない・・・」
落ち込んでいるとも悲しんでいるともつかない、微妙な顔のリーシェン。
まあ、そりゃそうだろうさ。
勝負出来るわけがない。
何が《ロリコン殺し》なもんか。
思いっきり、俺の知り合いだよ。
全然、少しも、そういうタイプの娘じゃねぇんだよ。
「休暇でドイツに遊びに来てるんだろう。
喧嘩なんかふっかけりゃ、それが台無しになるところだ」
「・・・せっかく、直接たいけつのチャンスだったのに」
「よく堪えた。
お前にも一応、理性があったんだな。感動した」
「・・・・・・」
「そんな顔するなよ」
「・・・・・・」
「そういう顔も、やめろ」
ゴミを見下ろすような目付きから、男を蕩かす表情への変化。
俺には、効かないけどな。
効かないうちに、やめさせておいた。
「カノンちゃんは、真面目でいい娘だぞ。
ロリコンとか、そういうのとは縁が無い。
これからはもう、おかしな称号で呼んだり絡んだりするなよ?」
「・・・・・・」
俺達そっちのけで熱く語り合う、キース達。
飼っている大型の蜘蛛を見たい、と言うカノンちゃん。
”勿論OKさ!”と、浮かれ調子なキース。
応接室から出てゆく2名の背中が、完全に見えなくなるまで待ち。
それからやっと、リーシェンが反論してきた。
「でも、じつがいがある」
「実害??
悪魔でありながら、《カナダの農業神》と讃えられる彼女だぞ?
お前のロリコンにどう関わってるって?」
「・・・ゔぁれすとは、『LPB』を読んだこと、ある?」
「んん??エルピービー??───何だそりゃ」
「読んでたら、ひくけど。
『Little Pink Babe』。
『こっち系』の、げっかん専門誌」
「ああ、『そっち系』か」
「カノントワルは、読者投票の年間らんきんぐで、一位。
ここ百年、常に」
「ええっ!?」
「わたしは、ずっと二位。
昔は、おかあさんが二位だったけど。
結婚したから、らんく外になった」
「シビアな世界だな───って、そうじゃなく!
何で、彼女がそういう本に載るんだよ?
絶対そんなつもりは無いだろうに!」
「そんなつもりが無いから、だいもんだい」
「??」
タバコに火を点ける、蜘蛛悪魔。
おっと、俺も今のうちに吸っておこう!
植物系の悪魔の前だと、嫌がらせになってしまうからな、喫煙は。
そしてすぐに換気だ、換気!




