449話 一筋の糸を 02
「これからそいつと、直接やり合おうってのか」
「そう。
でも、暴力とかじゃなくて、ろりこんを対象とした、しょうぶ」
「──────」
何か、ヤバそうだ。
至急ミュンヘン中のロリコン達に、避難勧告を出すべきか?
それとも、むしろ《御褒美》ってヤツなのか?
俺としては深く関わりたくないな、これ。
「というわけで、キースを」
「駄目だ」
「なんで、駄目なの?」
「あいつを引っ張り出して、どうするつもりだ」
「しょうぶの、見届けをしてほしい」
「なら、その役はキースでなくたっていいよな?
俺でも、俺が嫌なら、マギルでも連れていくか?」
「・・・・・・」
「さあ、本当の事を言え。
許可するかどうかは、それを聞いた後で考えてやる」
「・・・・・・」
「言いたくなきゃ、この件はキッパリ『NO』だぞ」
「・・・うう・・・」
シガレットケースから新たな1本を取り出しかけていたリーシェンが、硬直。
その指が引き戻され。
白いワンピースの裾を握り締める。
「・・・ええと・・・」
「──────」
「・・・その・・・」
「おう」
項垂れ、俯いた蜘蛛の悪魔が、ぽつりと呟いた。
「キースと・・・はなしたい」
「──────」
「いっしょに歩いたり、あそんだり、したい。
あそぶのは、『蜘蛛のあそび』じゃなくて。
TVゲームとか、ボードゲームとかで」
「──────」
「それだけで、いい」
「──────」
「・・・ずっと話してないから、さびしい・・・」
あーー。
そうくるかよ。
何だか、なあ。
まったく俺って奴は、つくづく甘い男だ。
長く生きてると───まだ若いが───こういうのに覿面弱くなる。
”どうにかしてやらなきゃ”、と思っちまうんだよなぁ。
「───お前、普段からそういう感じにしてろよ」
「・・・・・・」
「『ロリコン的』にはどうだか、俺には分からんが。
変に小細工するよりゃ、『それ』のほうがよっぽど可愛いだろうよ」
「・・・ゔぁれすとに褒められても、あんまりうれしくない」
「だから、そういう言い方を修正しろっての」
「・・・ちゃんちゃらおかしくて、吹き出しそう」
「そっち側にじゃねぇよ!!反対方向に行けってんだよ!!」
「ふふん」
途端に、妖しげな目付きで微笑むリーシェン。
───え??
ちょっと待て。
まさか、さっきのは《罠》だったのか?
俺は、ロリコンじゃないんだがっ!?
これが蜘蛛の恐ろしさかっ!?
ぞくり、と背に薄ら寒いものを感じた時。
少し離れた位置から、声が掛かった。
「───あのさ、社長。俺は別に構わないぜ?」
「キース、お前」
「キース!」
ドアが開けっ放しの応接室の入り口、火を灯していないタバコを咥え。
まさに話題の男が、気障に笑って立っていた。
「寝てたんだが、一服したくなってな。お邪魔するぜ」
颯爽と歩いてきて、ソファーに───リーシェンの横へ座り。
カキン、とライターの着火音が響く。
「今日は休みだし、暇なんだよ。
出掛けるなら付き合うぜ───いいだろ、社長?」
「ゔぁれすと!」
「むむう───」
キースは例の件の後、正式にウチのメンバーとなった。
借りていた部屋も引き払って、現在はアジト住み込みだ。
ドラゴン、そして悪魔についても、全て説明している。
ただし、《契約点数》を稼ぐ事はさせていない。
月々の評議会への支払いは、俺が持つ。
その代わりに住宅リフォームの営業を続け、給料の一部を入れてもらう形だ。
ウチとしては地上界の通貨も、重要な収入なのだ。
───キースは、強くなった。
───予想よりかなり、強くなった。
流石は、俺の血を引いているだけの事はある。
ドラゴンとしての血は決して濃くないが、一般的な悪魔レベルに仕上がった。
正直、ここまで持ってこれるとは思っていなかった。
まあ、それでも地上界でドラゴン形態になるのは無理だ。
しかし、なったらなったで処罰の対象だから、これでいい。
ただ、こいつは性格が甘いんだよな。
そりゃあ、俺も言えた義理じゃないが。
蜘蛛でどういう目にあったか、憶えてるだろうに。
それでも、リーシェンを突き放しはしないのか。
「───キースはあくまで、見届け役だ。
《ロリコン勝負》に巻き込むのはナシだぞ?」
気は進まないが、認めてやるか。
大丈夫だと信じたい。
ある程度は身を守れるくらいの、そこそこの強さにはなった筈だし。
「うん!わかった!」
「何でもかんでも奢らせるのも、駄目だからな?」
「むしろ、わたしが払う!
おこづかい、いっぱい持ってきた!」
お前も『小遣い制』かよ。
会計担当者から、どんだけ信用されてねぇんだ。
大いに、仲間意識を感じるよ。
「───まあ、今回は許可する」
「やった!!
キース、でかけよう!
《ろりこん殺し》をさがして、やっつけよう!」
「へいへい。
じゃあ、社長。しばらく出てくるぜ」
「ああ。気を付けてな」
さあて、どうなることやら。
街の皆様に迷惑が掛からなきゃいいが。
TVニュースで報道されるとか、勘弁してくれよ?




