448話 一筋の糸を 01
【一筋の糸を】
「ゔぁれすと」
「何だよ」
「・・・・・・」
「何だってんだよ?」
無言。
ダイア入りの豪勢なライターで、タバコに火を灯し。
背格好に釣り合わない、見事な吸いっぷりを見せるリーシェン。
嫌な予感が、ビンビンするぞ。
こいつが何か言い出す時は、大抵ロクでもない事が始まる。
とことん学習しない奴だしな。
ちなみに、名前を正しく発音したのは、挨拶の時点ですでに間違えたからだ。
「・・・・・・」
「さっさと用件を言え」
「・・・キースを、かしてほしい」
「駄目だ」
即答で断った。
この馬鹿と妹様達のおかげで、えらい事になったのを忘れちゃいない。
あれ以来、俺の許可無くキースと会うのは、固く禁じている。
駄目と言ったら、駄目だ。
俺はハッキリ、『NO』と言える男なのだ。
「そこを、なんとか」
「駄目だ」
「これは、本当にだいじ。名誉にかかわること」
「どういう名誉だ」
「《ろりこん殺し》が、ミュンヘンに来た」
「───は??」
何だそりゃ?
お前、”サンタが街にやって来た”、みたいに言うなよ。
まだジングルベルのシーズンじゃないだろ。
「《ロリコン殺し》って、何だ?」
あ、マズい。
思わず、好奇心に負けてしまった!
「よし。せつめい、しよう」
「しなくていい」
「ドラゴンを倒すには、《ドラゴンキラー》がひつよう」
「おい、やめろ」
「ろりこんには、《ろりこん殺し》が、とても効く」
「お前、全ドラゴンに謝罪しろ!今すぐにだ!」
「これは、事実。
すぐに謝罪をようきゅうするのは、現代の歪み。
じぶんが頑張るより、相手を下げることで上に立とうとする。
生産性なき、そしょう社会」
「───ぐぐ!」
見た目に反し、そういうツッコミだけは的を得てやがる。
くそっ、口では勝てねぇか!
「じゃあ、訴訟はしないが、反省くらいはしろ。
それで結局、どういうモノなんだよ、《ロリコン殺し》は?
『来た』って言い方だと、武器とかじゃないみたいだが」
「・・・《ろりこん殺し》は、称号。
本来は、蜘蛛に与えられるべき、さいこう栄誉のあかし。
なのに、蜘蛛以外に、とられた」
「その称号って、奪われたり外れたりするのか?」
「誰かが認定するものじゃ、ないけど。
勝ち負けは、常に心の中にある。
何も言われなくても、それだけは認めないといけない。
くつがえしたければ、じぶんの行動で示すべき」
「──────」
「”他者とひかくするより、おのれ自身と戦え”だとか、関係ない。
それをするべきは、頂点に立つ者だけ。
高みを目指す途中では、時に喉がひりつくような勝負もひつよう。
そうするいがいに得られない、経験があるから。
わたしはけっして、挑むことをおそれない」
おお。
意外にこいつ、信念が───ああ、いや。
危ない。
うっかり、『カッコいいな』とか口にしそうになったぜ。
これ、《ロリコン》の話だよな!




