43話 Theater for evil tongue 06
「───なるほど、ねぇ───」
悠々と白煙を吐き出し。
携帯灰皿に灰を落とす、悪魔。
「なかなか面白いな」
「・・・どこがだ?クソったれな仕事だぞ」
タバコの煙が目に入り、痛んで。
自然に僕の表情と声も、険しくなる。
こいつ!
好き放題にやりやがって!
『人間かぶれ』も、度が過ぎるんだよ!
今や喫煙者は、有害物質扱いの時代だぞ!?
「いや。お前の仕事じゃなくて。
教団の名前がな」
「・・・何だ?名前がどうした?」
「『グラース・エリエナム』。
俺たち悪魔の言葉で、“面倒だ、注意しろ”、って意味だ」
「何だ、それ」
「おそらく、初代の教主は実際に『悪魔の召喚』に成功してるな」
キン、と澄んだ音を響かせる、銀色のライター。
新しいタバコに、赤く火が灯る。
お前、何本吸う気だ。
僕を肺癌にするつもりか?
それとも、何かの『呪い』をかけているのか!?
「教団の名は、呼び出された悪魔が与えたんだろうな」
手の中で半回転させて、ライターの蓋を閉じ。
バルストがまた、煙を吐き出す。
「・・・何でそんな意味の言葉を?」
「さあな───悪魔すらドン引きするような『願い事』でも、したんじゃないか?」
「・・・・・・」
「ついでに、その悪魔から『召喚にはこれを使え』と、魔方陣を教えられたり。
その中に、『グラース・エリエナム』の単語が巧妙に隠されてたりして、な」
「じゃあ、“面倒だ、注意しろ”は、他の悪魔に対する警告か」
「正解───だから、どの悪魔も召喚に応じない。
現れずに声だけ送って、からかうくらいか?
適当に予言めいた事を告げる、とか」
「・・・それを40年以上続けた結果が、これだぞ!?」
「あん?」
「連中、成果が上がらない焦りから、供物が足りないと判断しやがった!
人間の生贄まで捧げ出してるッ!!」
「そう怒るなよ。俺の責任じゃないだろう」
「・・・ッ!これだから、悪魔ってヤツは!」
「悪いから『悪魔』なんだよ。当然の事だ」
咥えタバコで、他人事の様子!!
確かに『悪魔』だな!!
灰がこぼれてるぞ!!
「というか、人間───お前も相当なもんだな」
「僕がどうした」
「教会の関係者なんだろう?」
「・・・・・・」
「そういうのは、黙ってても分かるぞ。
『邪教徒狩り』は結構だが、悪魔の召喚はどうなんだ、教義的に」
「・・・・・・」
「『それっぽい』顔をしてるから、特別に許可が出ている、とかか?」
「・・・地雷を」
「うん?」
「・・・地雷を、踏み抜きやがったな・・・」
「どうした、急に。腹でも痛いのか?」
「ああ、いいだろう!!教えてやる!!
どのみち口外出来ないしなッ!!」
「───え?」
「お前の真名を知っている以上、お前は僕に逆らう事は不可能なんだよッ!!
バーカ!バーカ!」
「お───おう、そうだな・・・」
「いいか、低脳の悪魔!
よく聞けよッ───」




