442話 三重奏と、伝説の道化師 06
「・・・あのさ。
レンダリア様の《試したい事》ってのは、何だったんだ?」
「わたし達がそれを知る必要は、全く無いな。
研究所が壊滅したのなら、上手くいったのだろう。
それで十分だ」
「まあ、ウチとしてはそうだろうけどよ」
「ただ、元老院の内部でも、意見が割れているようだ。
アクションはそこそこ早いが、統一性が無い。
先日などは、アニー・メリクセンの居宅に押し掛けたらしいが。
命からがら逃げ帰ったようだぞ」
「アニーって、ええと・・・ドラマの脚本家だっけ?」
「それくらいは、知っているか」
「話のネタ程度にはな。
連中は、そのアニーを殺そうとして失敗したって事か?」
「人間を殺害するのは、天使も悪魔も御法度だ。
直接的でないなら黙認されるが、どうやらそっちの線ではなさそうだ。
おそらく、アニーからレンダリア様に関する部分を消そうとしたのだろう。
もしくは、分離か。
どちらにせよ、無意味だがな」
「何でさ?
大元が無くなりゃ、レンダリア様も消えるんじゃねーの?」
「お前がインスタントのヌードルを作って、食べる直前に記憶を失った場合。
テーブルの上のそれは、無くなるか?」
「おお!めっちゃ分かり易いな!」
「つまり、お前は元老院レベルだ」
「マジか!俺、天使になって初めて褒められた気がするわ!」
「それは良かったな。
───冷めてしまう前に抹茶を飲んだらどうだ、ザンガス」
「・・・うぐぐ」
「毒を食らわば、カップごとだ。男らしく、ぐい、といけ」
「毒って言うなよ!」
顔をしかめ、さも嫌そうに飲み干す馬鹿。
長官ではないが、こいつを弄るのはストレス解消にもってこいだ。
と、これだけで終わるなら、そう言えたのだが。
「お前は今夜、どこへ泊まるつもりだ?
寮内にはもう、入らせないぞ」
「んなこたぁ、分かってるって。
ホテルを予約してっからさ、心配すんな」
「心配はしていない。
そろそろいい時間だ、チェックインしてこい。
夜が更けたら、わたしもそっちへ行く」
「・・・は?何で??」
「約束しただろう。存分に触らせてやると」
「断固、遠慮させていただくぜっ!!
そんじゃ、ごちそーさんっ!!」
「ああ。地上での休暇を楽しめ。
『伝説作り』は程々にな」
慌てて立ち上がり逃げ出したザンガスの背に、軽く手を振り。
───さて。
───『反応』は、3つか。
その内2つが、移動を開始。
残りは、わたしに張り付いたまま。
あの嫌らしい長官が《お気に入りの道化師》を寄越した理由は、これだ。
溜息をついて。
キャラメル・マキアートの、最後の一口を飲み下す。
ああ。
最低の休日だな。
同族殺しは、気が進まない。
慣れてはいるが。




