441話 三重奏と、伝説の道化師 05
「そんでさ。そのレンダリアが、」
「三度目は無いぞ」
「・・・レンダリア様が、何で研究所を襲っちまうわけ?」
「ああ、それはだな。
わたしとレンダリア様は、プライベートで交流があり」
「いやいや!《接触禁止令》が出てる筈だろ!?
プライベートって言えば何でも許されると思うなよ!?」
「興奮するな、ザンガス。
抹茶臭い。
お前に許される必要は全く無いだろう。
それに、レンダリア様のほうから会いに来られたのだ」
「はあ!?」
「光栄な事に、地上世界へ降臨される際、お目に留まったらしくてな。
”《信奉者》としての素養が高いのに、かなり抵抗した面白い奴だ”、と」
「??」
「わたしは謁見にあずかる喜びに身を震わせつつ、正直に申し上げたのだ。
自分は、心の底から御方を崇拝し、敬愛しているが。
されど、この身は天使。
腹黒い上司に使われる存在。
仕事となれば、御方に弓を引く事さえある。
躊躇わぬ。
それでも、わたしの想いを受け止めてくださるでしょうか───と」
「おいおい」
「そういうわけで、わたしは───例えるなら、プラチナ会員になった」
「・・・・・・」
「体のどの箇所も捧げてはいないが、直通の連絡手段を頂き。
敵対する可能性を含めていながらも、庇護を受ける栄誉を賜った。
その事も、『長官公認』だ」
「・・・・・・」
「抹茶は美味いか、ザンガス」
「・・・正直、俺には無理」
「半月ほど前にわたしは、それより不味くて苦い液体を飲まされたぞ」
「え??」
「例年より2ヶ月も早い、『定期検診』でな。
地上勤務者のみが対象の、特別ドリンク付きだ」
「何だその、あからさまに怪しい検診は?」
「元老院は、速球ストレートの力技が大好きだからな。
飲んだらすぐに、呆れるくらいの本数を採血され、他は形だけの検査。
何が目的かは、その場で容易に想像が付いた」
「???」
「───《抗体》だ。
レンダリア様の降臨時、御威光を受けて『真言』を唱えた者達。
その血液から《抗体》を得る為、検診に託けたわけだ。
有事に備え、対抗手段を確保したかったのだろう」
「あのさ・・・そういうの、ウチのほうの研究所じゃやってねぇの?」
「降臨された後は、かなり方針が切り替わったからな。
排除の為の積極的な行動や、”そう取られるようなもの”は推奨されていない。
現在は、やや『共存寄り』の『冷戦状態』、といったところか」
「微妙に、おっかねーな」
「わたしは、レンダリア様を敬愛する者として、連中の所業を許せなかった。
長官は、前々から元老院の直轄機関が目障りだった。
レンダリア様は、”良い機会だから試したい事がある”、と仰言った。
かくして三者の思惑は、見事に揃い。
お前は、地上へ放り捨てられた」
「捨てられてねぇから!
一応これ、『休暇扱い』になってるし!」
「『死亡扱い』の間違いじゃないか?
細部まで、ちゃんと確認したか?」
「やめろっ!!不安にさせんなっ!!」
───ふむ。
長官から渡されている権限で、天界のデータベースに接続してみた結果。
とりあえずは、本当に『休暇中』のようだな。
この馬鹿は、今のやりとりをジョークだと思っているらしいが。
わたしからすれば、やるべき仕事の内容が大きく変わるんだぞ?




