440話 三重奏と、伝説の道化師 04
「───さてと、それで。
お前は何の用で、地上へ降りてきたんだ?
連絡も無しで来たということは、《緊急》か?」
「あーー。ええとだな・・・この『結界』、強度は?」
「多重暗号化した『防諜用』だ」
「そうか」
抹茶オレ(シュガー抜き)の残りを、みみっちく啜った後。
ザンガスが向かい側から、ぐい、と身を乗り出してきた。
やめろ。
わたしは、彼氏がいる身だぞ。
抹茶臭い。
「実は、研究所・・・ああ、ウチ絡みのヤツじゃなく、元老院・直轄のほうだが。
壊滅したらしくてよ」
「ふむ」
「ウチが疑われて、特別監査が入ってんだわ。
そんで長官が、”お前は地上へ降りて、ネイテンスキィに会ってこい”、って」
「つまり、調べられて困るような事は、何も無い。
しかし、馬鹿が聴取でもされたら、別件が漏れる恐れがある。
とりあえず、どこか遠くにやっておこう。
そういう事だな」
「俺、そんな扱いなのかよ?」
「今更気付くような奴は、そう扱うしかないだろう」
「・・・くそっ、言い返せねぇ・・・。
けど、元老院も何かにつけてチョッカイ掛けて来やがるよなぁ。
都合の悪い事は全部、ウチのせいかよ」
「犬猿の仲だから仕方無い。
それと、連中の研究所を壊滅させたのは、ウチではないが。
『関与はしている』ぞ」
「へっ!?そうなのか!?」
「わたしの発案でな。
実際に事を起こしたのは、レンダリア様だが」
「待て待て待て!何だそれ!?
どうしてそこで、レンダリアが出てくんだ!?」
「『様』を付けろ」
「何でだよ!」
「お前や、わたしや、長官より偉いからだ」
「長官よりも!?」
「当たり前だ」
「・・・それ、俺らの職務からすると、マズくね?」
「別に、何の不都合も無いぞ」
『職務』だとか、よくもまあ一丁前の口を叩けるものだな。
小さくて柔らかい癖に。
「仕事とプライベートは、きっちりと分けている。
わたしがレンダリア様のファンであることは、長官も承知の上だ」
「そんなのが、まかり通ってんのかよ?」
「そういう部分に口を挟めば長官といえど、パワハラ認定されるからな」
「まあ、そうだけども」
「よって、わたしのレンダリア様に対する『ファン活動』は正当だ。
自室にて、全裸になり。
ベッドの上、手作りのジャパニーズ《UCHIWA》を振り回し。
”エールケン・ベリ!エールケン・ベリ!”と叫びながら、跳ね回ろうとも。
そうした行為は一切、職務上の『あれこれ』に抵触しない」
「一体何の儀式だ、それ!?
寮暮らしだよな!?隣の奴、眠れねぇじゃん!!」
「いや、昼間の話だが?」
「・・・・・・マジで言ってんの?」
「半分は例えだ。お前の頭でも理解し易いように、と」
「先にそれを宣言してから、例えろよ」
「本当に面倒な奴だな───わたしは、もう一杯ドリンクを買ってくるが。
お前のは、抹茶でいいか?
それとも、空気中から水分を摂取したい気分か?」
「・・・マッチャで頼む」
「よし。いい子だ、ザンガス。
少し待ってろ。ステイだ」
「・・・・・・『半分』って・・・えっ??」




