42話 Theater for evil tongue 05
───故郷の妹へ。
僕が『こんな顔』で生まれたおかげで。
お前にも色々と思う事があっただろう。
僕のことで同級生に延々とからかわれ、苛められ・・・るどころか。
一緒になって僕を笑いものにしてくれたことを、恨んではいない。
全て憶えているが、少しも恨んではいない。
ああ。
僕は自ら、教会の籍を捨てるつもりだ。
幾許かの蓄えを持って、南の島へ行く。
───いいか?
南の島だぞ?
間違っても、アニメとゲームの楽園、日本ではない。
南の。
そう、南極だ、南極。
父さんと母さんの事、お前に任せた。
適当な馬鹿男とくっついて、適当に2人の面倒を見てくれ。
───さようならだ、妹。
僕の存在自体を、忘れてくれ。
お前に兄などいなかったんだ。
───僕は、お前のことを少しも恨んではいないぞ。
・・・思い出したくもない妹の顔が、脳裏に浮かんで。
・・・映画のエンディングのように、クレジットがスクロールするほど。
僕は、絶望していた。
最終手段たる、『奥の手』の。
その結果を前にして、泣き出したくなっていた。
「───おい。何だ、お前は」
「・・・・・・」
「答えろ」
「・・・・・・」
魔方陣の中に出現した悪魔に、呼びかける。
しかし、反応は無い。
ただ。
数瞬の間を置いて、『それ』の喉が動き。
口に入れたモノを、飲み込む音がした。
「───おい!」
「・・・何だよ?」
「こっちが聞いてんだよ!
何だ、お前は───何を食べてる!?」
「何って、見りゃ分かるだろう・・・」
「それは、ハンバーガーか!?」
「・・・おう」
「何の肉だ!?人肉かッ!?」
「・・・おい、やめろよ。不味くなるだろうが」
黒いスーツの男───に見える悪魔が。
露骨に嫌そうな表情をした。
しながらも、まだ食ってやがる。
「煉獄の13番街で買った、人肉バーガーかッ!?」
「しつこいな。違うって言ってんだろ」
溜息をつく悪魔。
「煉獄にバーガーショップなんて無ぇよ。
そこの・・・ああ、その、人間界で買ったんだよ」
───何だ、こいつ!
無差別召喚で手近なのを引っ張ってきたら。
おかしなのを当ててしまった。
人間型の悪魔なんて、流石に初めてだぞ!
しかも、かなり胡散臭いし!
・・・罠か!?
・・・僕の油断を誘っているのか!?
「何で、バーガーを食ってる!?」
「お前が食事中に呼び出したんだろうが」
「──────」
「こっちにも、事情ってモンがあるんだよ」
「どんな事情だ」
「・・・こういうジャンクフードを食ってると、怒るやつがいるんだ。
だから、夜中にこっそり買ってきたんだよ」
「非健康的な食生活だな!」
「ほっといてくれ。
真夜中に悪魔を召喚する奴に、言われたかねぇよ」
「──────」
「さっさと用件を言ってくれ。
『向こう側』にコーヒーとポテトを残して来てんだ。
冷めちまうだろ」
・・・ナメるなよ、悪魔!
やっつけの召喚で現れるのなんて、所詮は『低級』だ。
お前程度、どうにでもなるんだよ。
どちらが上か、分からせてやる!
「おい、悪魔!
お前の真名を名乗れ!」
「ん?───ああ───バルストだ」
「偽名臭いな!」
「嘘じゃねぇよ。
俺の真名は、バルスト───バルストだ」
「悪魔、バルスト」
確認の為、呟く。
魔方陣の外周が、微かに赤く点滅する。
・・・よし。
制御できている!
「召喚されし悪魔、バルスト」
「おう」
「お前の小さな脳味噌で理解出来る事は、少ないだろうが。
呼び出されたからには、僕の命令に従ってもらう」
「・・・・・・」
「そんな格好をしているくらいだ、多少は人間世界の知識があるんだろう。
それだけが、お前の利用価値だ」
「・・・・・・」
「いいか?
これから、現在の状況及び、その後の計画について説明する。
低級悪魔にも分かるように、噛み砕いて、な。
それでも理解出来なきゃ、お前は『猿以下』だ。
『猿のバルスト』だ。
オーケィ?アンダスタン?」
「───凄いな」
「返事は!?」
「お前みたいな召喚者は、初めてだ・・・」
「やかましい!聞けよッ!」
「へいへい」
清々しいほどに、偽名ですねー。




