表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
436/742

434話 はまる音 03


「どうやら今日は、とても調子が良いね」



ずず、とコーヒーを(すす)り。

アニーが普段よりも機嫌のいい顔で、『にたり』と笑った。



「ん?もしかして、体調を崩してたのか?

休んでなくて大丈夫か?」


「バカたれ!婆ぁが、急に元気になるもんかい!

体じゃなく、色々な事がさ」


「??」


「いつも通り、早くに目が覚めてね。

体操しようと庭へ出りゃ、鬱陶しい曇り空で。


『死ね!!』って叫んだら、すぐ晴れたよ」


「何やってんだ」



本当、何やってんだ《Curse Maker》。

天気が良いのは、アニーのお陰かよ。


もしもそこに天使達が到着してたら───もれなく転がってたか?



「ま、体を気遣われるのは、悪くないさ。

こいつを引っ張って来てくれて有難うよ、レンダリア」


「どういたしまして、アニー」



え??

何か今の流れ、おかしくないか?


『ありがとう』は、俺に直接言うべきじゃないのか?

どういう事なんだよ、一体。


《Curse Maker》の《独自ルール》は、特殊だ。

特殊過ぎて、俺にはさっぱり分からん。



「───なあ、アニー。

そもそも、急にドラマの中のキャラクターが訪ねて来て、驚かないのか?」


「驚く必要が、どこにあるってんだい。

世の作家達が、どうしてんのかは知らないけどさ。

あたしは『創作』と『現実』の区別をつけたことなんか、いっぺんも無いね」


「──────」



いやいや。

それが大問題なんだよ。

世界中の皆様に、影響を与えてるんだよ。



「レンダリアは、居て当然なのさ。

話したことくらい、何度もあるよ。そうだろう?」


「ええ。ティータイムだって一緒に過ごしたわ」


「つまり───元から母娘(おやこ)みたいな関係か?」


「まあね。

それと、この子は単純に《ドラマのレンダリア》ってわけじゃないよ」


「え??」


「脚本よりもずっと前に書いた、原作があるのさ。

誰にも見せていないし、見せるつもりもないけどね。

そっちのほうは、ドラマ版とは展開も結末も大きく異なるんだ」


「私は、両方を知っているわよ」


「そうさ。

だからこそ、レンダリアは《消せない》。

誰の嫌がらせにも負けない。

この子の秘密を知らない限り、邪魔することなんて出来やしないのさ」


「元から十分に強いだろ。

強過ぎて、自重していただかなきゃ困るくらいだぞ?

誰も挑んでくるわけがないって」


「甘い甘い!

あたしはね、自分以外に妙な期待なんかしないんだ。

表皮の1ミリ先は『敵』だよ。

世界中が全部、『悪意を持った敵』だ。


前にも言っただろ?

この子は、『一番綺麗で優しい部分のあたし』だって。


何が、”強過ぎる”もんかい。

優し過ぎて心配で、胃が痛むくらいなんだよ」


「──────」



隣に座っていらっしゃるレンダリア様とアニーの顔を、見比べてみる。


まあ、その。

レンダリア様は、優しいといえば、優しい。


分かり難いが、慈悲は感じられる。

包容力もある、気がする。


だが。

それよりも───



「何だい!文句でもあるのかい!?」


「いや、別にそうじゃないさ」



凄まれて、自然と声は小さくなるが。



「ただ───申し訳ないんだ。

全部『敵』だと思えるような世界で───ごめんな、アニー」


「・・・・・・」



返事は無い。

頭を下げたから、向こうがどんな表情をしているのかも分からない。


けれど、《邪悪》《猛悪》と散々に叩かれるアニーにとって。

世界のほうこそがそう見えている事を、誰も知らなくて。

俺も知らなくて。


それが、とても悲しい。


言葉にされなきゃ気付きもしないなんて、間抜けもいいとこだ。

こんなだから俺は、『まだまだ』なんだ。



「・・・もういいよ、やめとくれ」



ぶっきらぼうに言われ、顔を上げたが。

視線は合わない。

マグカップに口を付けたアニーは、微妙に目を()らしている。



───ヘタな事は言わないほうが、良かったか?



気まずくなった雰囲気をどうしようかと、考え始めた時。

がし、と腕を掴まれ、我に返る。


玄関まで引きずって行かれた時と同じく。

強引に腕を組まれて───痛い。



「ねえ、アニー。お願いがあるのだけど」


「何だい」


「ヴァレストは、私が貰っていいかしら?」



は??



『貰う』って、何だ??


俺を??



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりアルヴァレストさんって、天然の紳士だよなぁ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ