432話 はまる音 01
【はまる音】
転移で急行───周囲を見渡して。
やや寝呆けていた俺の頭が、瞬時に覚醒。
『状況を把握した』というより、『危険度を理解した』。
「───日曜の朝っぱらから、御苦労な事だな」
アニー・メリクセンの自宅を取り囲む輩に、一応の挨拶だけはしておく。
本当は、それすら嫌なんだけどな。
流石はマギル。
俺がどうやっても組めなかった《自動検知システム》を、数分程度で完成させ。
そして今実際に、こうして機能したわけである。
ただ、想定していたのは『頭のおかしい、暴力的な人間』で。
まさか『天使』が釣れるとは、思っていなかったが。
「おう、お前ら。
俺の知り合いに何かしようってんなら、物理的に排除するぜ?」
「引っ込むのはそっちだろう、悪魔」
「5対1でやるつもりか?」
「こいつ、”長く生きているわりに頭が悪い”と有名な奴だ」
崩れる寸前の石壁に立て掛けられた、3本の円筒形の『何か』。
良く分からない装置みたいなのを設置していた連中が、鼻で笑う。
───ああ、そうかよ。
───俺の事を知ってるようで、何よりだ。
まあまあな口を叩く天使共は、まあまあな階級だ。
そのうち1名は、大戦時に見た記憶がある。
男の顔を憶えるなんざ滅多と無いから、何回かは出くわしてるんだろう。
まともにやったら、分が悪い。
というか、勝てない。
けどな。
「俺は、相手や数を見て主義を曲げるつもりは無ぇよ」
「これは、これは!」
「口だけは大物だ」
「本物の馬鹿か」
はは、そりゃそうだ。
馬鹿だから、2度も『降格』した。
馬鹿を突き通すから、評議会と揉めている。
今更だぜ。
こちとら分の悪い喧嘩しか、した事がないんだ。
自分の『馬鹿さ加減』に、意地があるんだよ。
お前らに笑われたところで、痛くも痒くもねぇさ。
「御託はいいから、さっさと始めようぜ。
『竜殺し』を取ってくるなら、待ってやるが?」
その場合はこっちも、マギルを呼ばせてもらうけども!
「・・・・・・」
「・・・・・・」
口をつぐむ5名。
潰すなら、まず左から2番目の奴か。
何故なら───
法術式の展開動作。
ほら、やっぱりだ。
こいつだけ、近接戦闘の身構えじゃなかった。
バレバレだぜ、実戦経験が少ないな!
速攻で仕留めるべく、飛び込もうとした矢先。
───俺の視界を、白いドレスの背が塞いだ。
「!!」
「せっかくの良い天気なのに。
実家が天使───それも《鰐もどき》に包囲されてるなんて、最悪だわ」
うおっ!!
レンダリア様か!!
「あら。一匹だけは、鰐じゃないのね。
私にとっては、どうでもいい事だけれど」
「お前、どうしてここに!?」
「くそッ!こんなタイミングで!」
驚愕し、叫ぶ天使共。
だが、その混乱の表情はすぐに消えた。
いや。
正確には全員、地に倒れ伏して顔が見えなくなった。
「───誰に向かって、『お前』ですって?」
柔らかな日差し、早朝の澄み切った空気の中。
とても爽やかで且つ、寒気のするような声。
返答は無い。
呻きだけが途切れ途切れに響く。
「大袈裟にお苦しみのところ、申し訳ないのだけれど。
《それ》、かなりマシなほうなのよ?
帰らない場合は、もっと酷い死に方に」
あ。
最後まで聞くこと無く、瞬きの間に天使達の姿が掻き消えた。
『緊急帰還』か?
悪役らしく、胸のすくような逃げっぷりだな。
ざまあみやがれ。
俺が追い払ったわけじゃないが!




