表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
427/742

425話 Nothing to say 02



コンコン、コンコン。



「陛下、お目覚めになっているのでしょう?

開けてくださいまし」



再度のノック音と、優雅で落ち着いた物言い。



「───」


”・・・”



固まってしまったように、微動だにせぬ二名。

悪魔の額からは、すでに冷や汗が流れ出している。


そこから、10秒ほどの沈黙を挟み。


《訪問者》の常識的な行動───『ボーナスタイム』は終わった。




「陛下ぁッ!!開けてくださいッ!!

ベルカーヌですッ!!ベルカーヌが参りましたよッ!!」



バンバンッ!!バンバンッ!!



「陛下ぁッ!!我が愛しの、魔王陛下ぁッ!!」




「なっ、ななな、何で彼女がっ!?」


”赤ネズミ達に焚き付けられたんだよ!そうとしか思えない!”


「『遮断壁』の破壊も、奴等が手伝ったか!」


”これ絶対、あいつらも姿を消して隠れてるよ!

開けたら最後、雪崩(なだれ)込んでくる!

君を《廃位》に追い込むか、誰かに譲渡させるつもりなんだ!”


「『魔王だった私が追放され、気が付けば異世界に 〜のんびり最強目指します』。

若干、文字数が少ないか───」


”こんな時に現実逃避は、やめてってば!!”




ダンダン!!ダンダン!!



「どうか、ここを開けてくださいッ!!

陛下最愛の情婦、ベルカーヌですよッ!!陛下ぁッ!!」




「何を言ってるんだ、あいつは!?

『そういう関係』を持った覚えは、一度だって無いぞ!

そもそも、自分で《情婦》とか叫ぶような女性に興味などあるものか!

おまけに男の寝所へ押し掛けるなど、言語道断!

恥を知れ!


私が漫画以外で心惹かれる女性は、メイエルだけだ!

天真爛漫な振る舞いと、魔王を魔王と思わぬ豪胆なスキンシップ!

そこに隠され、非常に見付けにくい心優しさ!

私は!

私は、彼女を愛しているのだ!!」


”前半も後半も、相手を前にして言いなよ!

どっちもすでに手遅れだけど!”


「そんな度胸は、持ち合わせていない!」




ドガッ!!ドガンッ!!



「ふんぬッ!!───ふおうッ!!」



ドガッ!!ドガンッ!!




「ちょっ───おいおい、おいっ!?」


”やっばい音になってきたぞ!

向こうで何やってるのさ、これ!?”



顔を見合わせる一名と一匹。


男が右手を持ち上げると同時。

白金で(ふち)取られた《鏡》が、忽然(こつぜん)と宙に出現する。



そこに映し出されたのは。

扇情的にも程がある薄物を(まと)った、背の高い女性。


水色の、けれどゆっくりと虹のように色彩を変え続ける長い髪。

それを揺らし───いや、振り乱して。


鬼神の如き形相で、左右の《正拳突き》を交互に打ち込む姿。


きっちりと素晴らしく、『腰溜め』だ。

呆れるくらい重厚で、破壊的で。


本気(マジ)本気(マジ)だ。




「ぬああッ!!───ふぬんッ!!」



ドゴオンッ!!ドゴオンッ!!




”「ひいいっ!!」”



その様を直視出来ず、慌てて《鏡》を消してしまう男。

二名は固く身を寄せ合い、ガタガタと震え始めた。



「こっ、こんなの、一般的な女性が出していい声じゃないぞ!

私をショック死させる気か!?」


”ベルカーヌは、少しも一般的じゃないだろ!”


「それもそうか!」


”ねっ、ねえっ!もう一度確認しておきたいんだけど!

この扉、本当に大丈夫だよね!?”


「ああ、当然だ!」


”彼女の『位階(すうじ)』、六位だよ?”


「全く問題無い!」


”あとさ・・・ベルカーヌって確か、《堕天》だよね?

元々は天使だよね?”


「そうだな」


”『天使と悪魔の力が合わさり、扉がヤバい!』”、みたいなのは無いよね??”


「そんなおかしなファンタジー、あるものか。

漫画と現実の区別くらいは、つけたまえ」


”・・・・・・”


「いいか、キング。


私は《魔王》だ。

地獄において最強だ。

世界に生まれた一番最初の悪魔であり、《神》とも闘える唯一の存在であり。

魔導原型核(ファウストカーネル)』の製作者にして、あらゆる魔法を極めし者。


そんな私が、少なくとも5000年間は引き籠もれるよう作った『最終障壁』だぞ?


万が一にも、破られることはない。

どれだけベルカーヌが暴れようと、傷一つ付けられるものか」


”信じていいんだね?信じるよ??”


「大丈夫だ。安心していいぞ。

こんなのはな、人間の作る『ホラー映画』と同じだ。

いくら怖くても、耐えていれば終わる。

ベルカーヌだって、そのうち力尽きるさ。


なぁに、どうって事はない。

『最終障壁』の耐久値は、まだ87───86%ある」


”削られてんじゃんッ!!全然駄目じゃんッ!!”



後ろ脚で人間のように立ち上がった猫が、男の頬にパンチを叩き込んだ。



「い、痛いっ!」


”これもう、壊されるのは時間の問題だ!

今すぐ、メイちゃん呼んで!!早く!!”


「嫌だ!

こんな恥ずかしい状況、彼女に知られたくない!」


”君が恥ずかしい奴なのは、今更だよ!

それに結婚しちゃってるんだから、もうメイちゃんの事は諦めなってば!”


「───離婚するかもしれない」


”最低か、お前は!?”



ついに『お前呼び』した猫の爪が、魔王の顔に一閃。

それでも、のけぞりながら出される絶叫。



「嫌だと言ったら、嫌だ!!

好感度を上げられない以上、下げるのだけは絶対に御免だ!!

こうなったら、《四家》を招集する!!

流石のベルカーヌも、引き下がるしかあるまい!!」


”君さぁ・・・どこまで馬鹿なの?

とっくの昔に《四家》は、赤ネズミと通じてるじゃん”


「え」



呆然となる魔王。



「いや───私の血を分けて生まれた───《始原の悪魔達》だぞ??」


”だから!とうに裏切ってるんだっての!”




「ずおりゃああぁ!!羅漢爆砕掌ォォォッ!!!」



ズガアアァン!!




「ど、どどどどうしたら!どうすればいいんだ、これはっ!?」


”六位のベルカーヌを、力技で止めるのは無理!

それなら、別の方向で・・・ええと・・・ええと。


・・・・・・そうだ!!《紳士》を呼ぼう!!”



恐怖に追い詰められ、掛け物にしがみつきながら叫ぶ猫。



「───は??」


古来(いにしえ)より、荒ぶる女性を(なだ)めるは、《紳士》の(つと)め!

この修羅場を穏便に切り抜けるには、《紳士》の力を借りるしかないよ!”


「《紳士》??

それはもしかして、アル───ヴァレストの事か?

あいつは降格しているし、それでなくとも『へっぽこ』じゃないか。

あんなのが、ベルカーヌをどうにかできるとは───」


”君が言えた義理じゃないだろ!

ヴァレストはまだ、修行中の身だし!

それに、ああいう『押しの強いタイプ』とは相性が悪すぎる!”


「じゃあ、意味が無いだろう」


”だから!《本物の紳士》を呼ぶんだよ!

ヴァレストの師匠を!!”




「ぶるるぅああぁ!!天魔豪滅波ァァァッ!!!」



ズドオオオォンッ!!!




”「うわあああぁ!!!」”



部屋全体が激しく揺れ、天井からパラパラと何かが降ってきて。

猫を抱き締めながら、地獄の支配者たる『最強悪魔』は泣いた。


錯乱して泣きまくった。



「も、もう無理!!駄目だああ!!

胃が痛いっ!!降伏しよう、キングっ!!」


”馬鹿言うなっ!!

地上に《召喚陣》を送るんだよ!!準備して!!

場所は、僕が教えるから!!

《陣》の出口は、ベルカーヌの背後(うしろ)を指定で!!”




「EXゲージ3本ッ!!───真・18インチ徹甲撃ィィィッ!!!」



”急げっ!!ポンコツ魔王っ!!”



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ベルカーヌ、まさか格ゲーを日本人にもたらしたか?!(ただリスペクトしてるだけかな?) それはそうと魔王さま、、、裏切りを知らんかったんかい! 赤ネズミは多分メナールかな、、、 久しぶり…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ