表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
425/742

423話 脱出可能、逃走不可 09



「ちょっと待って!」



シンが大声を上げ、遮った。



「聖書には───《旧約》も《新約》も、天使に関する記述が極端に少ない!

それを補完する部分があって、しかも本物だとしたら!

これはとても貴重な、本当の大発見かもしれないんだよ!?」


「ああ。そうだろうな」


「『だろうな』って、君!!」


「でも、要らない」



吐き捨てるように言い切った僕を。

シンが驚愕と怒りを織り()ぜた表情で、睨み付ける。


それでも。



「要らない」


「だって!!───いや───それは───」



叫びの後半が、勢いを失い。

興奮していたおっさんから、急速に熱が抜けてゆくのが見てとれる。


どうやら、気付いたらしいな。

クールダウンに入るまでの時間が、予想以上に短い。

情け無いが逆の立場なら、こうはいかない自信があるぞ。


僕の『願い』は当然、特務従事者として最大の服務違反で。

しかもそれを、悪魔にやらせようという暴挙だ。


普通、相方(パートナー)が容認するわけがない。

組んでいたのがシンじゃなきゃ、ブン殴られるだけでは済まないだろう。



「もしかして、マーカス。

これは───『復讐』なのかい?」


「ああ。そう捉えてもらって構わない。

僕は《聖人》じゃないし、清廉な身の上とも言い難い。

欲にまみれて陰険で、とても執念深いんだよ」


「この前に聞かせてくれた、『彼』の一件だね?」



無言で頷いてみせた。


僕にだって、この古臭い巻物が『特級の掘り出し物』だとは理解できる。

失われてしまえば、二度と同じ内容が発見されないかもしれない、とも。



───けれど、消し去りたい。


───闇に葬り去ってしまいたい。



ブライトン・バルマーには、”《天使》という名前の偽者だ”と語ったが。

実のところ、あれは嘘だ。

そう思いたい、信じたいという、僕の願望だ。


まともに考えるなら。

本物と偽者、2種類の《天使》が存在するなんてのは、不自然極まる。

そんな僕らにとって都合のいい話、あるわけがない。



おそらく、《奴等》は関わったのだ。


キリスト教が、聖書が成立する際、本当にそこに居て。

姿を見せつけ、(おごそ)かに偉そうに語り。

永らく規範となるべき信仰の原型に、深く関与して。



そこまでしておきながら、放り出した。

結局は投げ捨てた。



何故そうなったかは明らかにできないだろうし、する必要も無い。


だが事実として、《奴等》は()てた。

興味を失った。


カトリックだろうが、プロテスタントだろうが、関係無い。

教義も信仰も信徒の生き様も、連中にとってはもはや、どうでもいいんだろう。

それ自体は、どうなろうと構いやしないんだろう。


そうさ。

だから、わざわざあんな、反吐が出るような『実験』をする。

人間(ひと)の心を踏みにじりやがる。



正直、ブライトンはもう『生きてはいない』、と思っている。

シンも口には出さないが、同意見に違いない。


『実験』が終われば、姿を見せた人間を生かしておくメリットが無い。

僕がまだ生きているのは、《見ていない》から。

きっと、それだけの理由なんだろう。



でもな。



───見えなくても、お前らが居る事は分かった。


───聖書の中に記されていようが、《敵》であると認識した。



お前らは。

僕の信仰における、《最大の敵》だ。



「ごめん、シンイチロー」


「いや、謝らなくていいよ、マーカス。

私は学問に(たずさ)わる身として、この巻物の中に興味があるけれど。

一人のカトリック信仰者として、人間としては、君の意見を支持するよ」


「・・・」


「そうだね───消してしまおう。

私にだって、『復讐心』はあるんだよ。

少しでも《彼ら》の痕跡を削り落とし、ゆくゆくはその全てを無に帰そう。


今回の選択が、その始まりだ」


「・・・有難う、シン」


「はは!今の、カッコ良かったかい?

少しは見直した?」


「見直すも何も・・・僕はシンのことを、信頼してる」



()っ恥ずかしいから、顔をそむけて呟いた。

丁度そこにキョトンとした(?)目玉があったから、そのまま話を進めよう。



「・・・という事で、エルクレントス。

消去してくれ。

どんな人間も絶対に読めず、復元できないように」


”ホントに、いいんだな?”


「ああ」



目玉の中心から細く立ち(のぼ)り、すぐに消える白い煙。



”──────よし。

マーカスがさっき言ってた通り、切り落として燃やした。

もう《どこにも存在しない》から、解読なんて出来ない。

《物体の記憶を見る魔法》を使っても無理だ”


「そうか」


”あとさ。《狂騒熱(マインド・ダンス)》も外しておいたぜ。

散々眠ったから、今度は思いっ切り起きておくし。

もう誰に見られたって、気にしないことにするよ”


「せっかく起きたところ、申し訳ないんだが。

これからお前は、今とも昔とも違う別の場所へ運ばれる予定だ。

そこが具体的に何処なのか、僕には分からないけどな。

色々調べられてから最終的に、倉庫みたいな所へ保管されることになる」


”ああ、いいさ。

外の景色がどうであれ、オレが《こいつ》から出られないのに変わりは無ぇし。

のんびり朗報を待つさ”


「・・・じゃあ、お別れだ、エルクレントス。

ケースの蓋を閉めていいか?」


”オーケー。

またいつか会えるといいな、マーカス!”


「あと5、60年以内にお前が放免されたら、会えるかもな」




巻物の中にズブズブと沈んでゆく、目玉の悪魔。


その姿が完全に消えたのを確認してから、ケースを閉じる。

ファスナーをぐるりと廻し、固定ロックの爪を引っ掛けて倒す。




「・・・・・・ふう。

これでやっと、終わりだ」


「お疲れ様!

いやあ、君と組む時はいつも、奇想天外な事になるねぇ!」


「僕もそう思う。

そうなるように豚野郎が仕組んでるんじゃないか、と疑ってる」


「私達はこれまでに、ちょっと口外出来ないような『違反』をしてきたけどさ。

今回のは、とびっきりだ。

お偉いさん達が揃って気絶しちゃうね!」



とても楽しそうに笑う、シンイチロー。


僕も笑ってしまいたい気分だ。

ヤケクソでも、強がりでもない。


信じた事をやり切って、一歩前進した充実感があった。



「ヴァチカンのハゲ共がどうなろうが、知ったこっちゃない。

責任は自分に問い、自分でとるだけさ。


生きていること、人生には『目的』がある。

やっと僕は、そう思えるようになったんだ。


翼が生えてて頭に輪っかがある《誰か》に、嘲笑(わらわ)れても。

僕は、僕の『信仰』を捨てようとは思わない。

そして。

ゴミの山に(こうべ)を垂れて、宝だと(あが)めるつもりもない。


『信じる』じゃなく、『磨き続けて』死へ向かう。


そう決めたんだ」


「───マーカス」



胸の高さに、シンの右拳が突き出され。

僕も、自分のそれを打ち合わせる。



ちくしょう。

とびきり熱いな。

太陽も、この展開も。


原作が少年誌で連載中の、アニメかよ。



とにかく───これにて任務完了!


さあ、今夜は久し振りの中華だ。

みんなで腹一杯、食べようぜ!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ