418話 脱出可能、逃走不可 04
悪魔というものは、基本的に人間の言葉を話し、理解する。
連中の『仕事』は、召喚に応じて交渉して合意して、という流れだ。
その為にはどうしても、人間側に合わせる必要があるのだろう。
これまでの経験上、使用言語は大抵、英語だ。
それか、フランス語。
少ないが、日本語で流暢に話す奴にも会ったことがある。
───それなのに。
───この『目玉野郎』ときたら、《悪魔語》だよ。
嫌がらせのつもりか?
それともウケ狙いでやってんのか?
一応は僕も、涙ぐましい努力とブレイク達の指導で、7割くらいは話せるが。
このままだとシンが『カヤの外』になってしまう。
”英語で話してくれよ”と要求したら、こいつ、とんでもない事を言いやがった。
”イングリッシュって、何だ?”。
お前な。
人間の世界では、ほとんど公用語みたいなもんだぞ、英語って。
これさえ喋れたら、何処の国でも大抵はどうにかなるんだぞ、マジで。
スペイン語、フランス語、ラテン語も駄目。
ドイツ語はごく一部しか通じず、意思の疎通が困難。
結局、ギリシア語だけがまともに理解出来るらしく、それで会話することに。
参ったな。
最近使ってなくてちょっと、忘れかけてるんだけどな。
「僕はマーカス。そっちはシンイチロー。
お前の事は、何て呼べばいい?」
”んあーー。オレは、エルクレントスだ”
「なんか偽名・・・ぽくないな」
”そりゃ、偽名じゃないからな。
───ああッ!!しまったッ!!”
「・・・・・・」
召喚したわけでもないのに『真名』名乗るとか、馬鹿にも程がある。
こいつ、チョロそうだぞ。
「エルクレントス、ね。そうかそうか。
エルクレントスか。
初めまして、エルクレントス。
よろしくな、エルクレントス」
”連呼すんな!
親にだって、そこまでしつこく呼ばれた憶えは無ぇよ!”
「ところで、エルクレントス。
お前は何で、《巻物の悪魔》のクセに読んでくれた奴を呪うんだ?
呪うことで、どういうメリットがあるんだ?
カトリックへの挑戦か?
それとも単に、性格が悪いだけか?」
”ちょっと待て。《巻物の悪魔》って、何だ?
オレは、巻物に隠れてるだけだぞ?”
「あ??隠れてる??」
”そうさ。
『点貸し屋』から逃げる為に、隠れてんだよ。ここに”
ぱちぱち、と瞬きする奇怪な目玉悪魔。
もしかしてこいつ、緊張というか、オドオドしているのか?
なんか逃亡中の身の上らしいし。
眼球と瞼の動きだけで感情表現されても、分かり難いんだが。
「『点貸し屋』って、何だ?」
”んあーー。それはアレだ、人間風に例えると『貨幣を貸してくれる所』だ”
「へえ。そういう事は、悪魔達もやってるのか」
”悪魔が先にやって、人間に教えたんだよ!
まあ、オレが威張る事じゃないが”
「むしろ、罪深いな」
”──────”
「ああ、どんどん懺悔してもらって結構だぞ。
続けてくれ」
”いや、懺悔じゃ無ぇし。
ええと、その。
オレは事業を興すのに、『点貸し屋』からデカく借りてな。
最初は上手くいってたんだが、どんどん経営が悪化して。
だから、また別の所から借りて。
───懺悔じゃないんだけどな”
「そして、最終的に逃げた、と」
”どうにもならなかったんだよ、ホントに。
逃げ回ってたら丁度、『これ』を見付けてさ。
読んでみたら、「悪魔の誘惑に負けるな!」みたいなのが書いてあるだろ?
この中に隠れるとか、案外盲点なんじゃね?、って”
「まあ、それは認める。
僕にしたって、聖書絡みの発掘物に悪魔とか、予想もしなかった。
でも、何で隠れなきゃならないのに、《呪い》みたいなのが必要なんだ?」
”オレは取り立てから逃れる為、自分を仮死状態にしてたんだけどな。
眠ってる間、知らない奴に寝顔とかジロジロ見られたくないじゃん?”
「・・・・・・」
”ついにバレちまったか、と腹を括って出てみたら。
まさか、人間とはなぁ。
別の意味で驚いたぜ、まったく!”




