40話 Theater for evil tongue 03
───『休日』。
それは。
かの有名な映画、『ローマの休日』をもじった“隠語”。
ヴァチカンは、動けない、の意。
この話の流れからすると。
『対邪教徒鎮圧』を専門とする、ヴァチカンの秘匿部隊は出払っている。
もしくは、別件に備えて第一種の待機中、ということ。
・・・いよいよもって、ヤバくなってきたぞ・・・。
「青銅騎士団」
「休日だ」
「マルタ騎士団」
「休日」
「メルセタ修道会」
「駄目だ。
潜入し、殉教した者の血縁者が複数、在籍しているんでね。
最悪、彼等は『故意に』暴走する危険がある」
・・・Fuxk!!
完全に、僕の退路は塞がれている!!
「───何も、君だけで連中を捕縛してくれ、と言ってる訳じゃないよ」
ゆっくりと椅子に座り直し。
豚野郎が両手の指を組んで、そこに贅肉だらけの顎を載せる。
「『特務』専門でない部隊なら、動かせる。
君はただ、一箇所に集めてくれたらいいだけだよ。
後の事は、こちらに任せてくれればいい」
「全員を?」
「うん」
「末端の連中も、一人残らず?」
「そう」
簡単に言うなよ、ボケ!!
「マーカス君。君なら、出来るよ」
「──────」
「君なら可能だ。君の『顔』なら、必ず」
・・・ああ。
そうだ。
この『顔』のせいで、こんな仕事を背負わされる!
───有り体に言って、僕は美形だ。
そう断言することに、何の躊躇いも無い。
脚が速い奴が、「私は走るのが得意です」と言うのと同じで。
事実なのだから、遠慮も謙遜も必要無い。
しかし。
神から授かった、この美貌。
そこに悪魔がもう一手、付け加えたか。
僕の目付きは、恐ろしいほど『邪悪』なのだ。
───数々の、警察による職務質問。
───カルト教団からの、熱烈な勧誘。
同じカトリックの信者達ですら、息を飲む。
初対面でないにも関わらず、怯える。
自分でも、鏡の前で笑ってみたら、ゾッとしたさ!
伸び悩んだ身長と、かなりの童顔も加わった結果。
そこに映っていたのは。
“闇より舞い降りた、『邪教の少年信徒』”
・・・他に表現のしようがない。
おかげで、外を歩く際にはフード付きのパーカーと、サングラス装備。
礼拝ですら、誰もいない時を見計らって、こっそりとだ。
「・・・整形したい・・・」
「駄目だよ、マーカス君」
ぽつり、と呟いた言葉へ。
豚が即座に反応する。
「御神より頂いた、その・・・まあ、特殊な『顔』。
天命と思って、キリキリとお仕事に励んでほしいなぁ」
・・・ブチ殺すぞ、ハゲ!
いや!
落ち着け、僕ッ!
こんな糞野郎な爺ぃでも、お偉いさんだ。
一応、言葉には気を付けよう。
査定の時期だし、今回の特別手当にも関わる。
一時の感情に流されたら、後で悔やむ事になるぞ!
───よし。
僕は、立派な社会人。
敬虔なる、カトリック信徒。
「ブチ殺すぞ、ハゲ!」
そのまま、口から出てしまった───
マーカス君、荒ぶりすぎだよ・・・。




