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417話 脱出可能、逃走不可 03



「・・・思うんだが、今回の任務って意味無くないか?」



感じるままを口にしてみる。


ストレス発散。

そして、僕自身のリスク回避の為に。



「んん?」


「お偉い爺ぃ共には、重要アイテムなんだろうけどさ。

でもな。

《これ》に何が書いてあったところで、普通のカトリック信徒に関係ないだろ。

明日から聖書の内容が訂正されるわけじゃなし」


「まあ、そうだね」


「これまで幾つもおかしなのを『回収』してきたけど。

《これ》こそ、海にブン投げてもいいやつだ。


・・・なあ、シン。

捨てよう、こんなのは。

破れて魚にでも食われたら、もう誰も読めやしない。

即ち、これから先、読もうとして錯乱する被害者も出ない」


「んーー」



正直に言えば、面倒臭くて危険度が高い。

良く分からないブツを扱って、良く分からない目に合いたくないんだよ。


”sorry、解除出来ませんでした”、で終わっていいじゃないか。

任務達成率で誰かと争う気は無いし、全く気にしていないからな。



「ヴァチカンも、こんなのコレクションする暇があったら他の事をやれよ。

手を付けるべき事は、沢山あるだろ。

《奇蹟》と《聖人》の認定に関してとか、どうすんだよ?

僕からすれば、あれこそ『カトリック最大の失策(ミス)』だぞ」


「おっ!その点は同感だなぁ!

私もね、”聖書の記述以外にも重要な事はある”と考えてるけれど。

その2つを公式扱いで追加するのだけは、駄目だと思うんだよ。

特に、《奇蹟》。

神の御技(みわざ)が、今もこの地上に届いていると認めてしまったら。

じゃあ、どうして生きている人間を助けてもらえないのか、ってなるし」


「《聖人》だって、大問題だろ。

それでなくとも司教や枢機卿、法王と、実質的な階級が存在してるのに。

そこへ《新たな聖人》まで追加されるときたら、一般信徒の立場が無い。


どれくらい頑張れば天国へ行けるのか。

自分程度ではその基準を満たせないんじゃないのか。


そういう不安を煽ってしまうだけだと、何故気付かないんだ?

カトリックの名を出して、無意味に地上を飾り立てようとすんな、っての」


「確かに!まったくもって、その通りだよ!

いやぁ、君も随分と話せるようになったねー。

今夜あたり、焼酎でも()りながら語り合おうじゃないか。

教義の形骸化や矛盾について、色々とさ!」


「ああ。勿論僕も、大歓迎だ」


「それでね、マーカス。

そういう事はともかくとして。


───ケースを開けようじゃないか」


「・・・どうしても?」


「どうしても、だよ。

このまま調査団の人達の《呪い》が解けなかったら、可哀想でしょ?

やれるだけは、やってみなきゃ」


「・・・分かったよ・・・」



ここらが限界か。

シンが笑ってる内に、張りまくった意地は引っ込めたほうがいいな。


嫌なんだけどな。

物凄く嫌なんだが、やるしかないのか。


今も遠く、崖の向こうからは銃声が鳴り続けている。

因縁の対決らしいし、秘匿部隊員にもそれなりの殉職者が出るに違いない。

そりゃあ、それぞれが自分で選んだ道だから何も言えないけどさ。

その(かげ)で僕だけ何もせず、っていうのは、少しだけ気が引けるんだよな。



見るだけ、な?

一応見るだけ。

どうせ《呪い》なんか、解除する手段は無いんだし。



「・・・じゃあ、開けるぞ?」


「うん」



砂浜の上に置いたハードケース。

固定ロックの爪を三箇所、跳ね上げて外し。

ジッパーの持ち手をケースの外周に沿ってぐるり、と引いて。



───さあ、御対面だ。


もっとも、確保する時点で一度は見てるけど。




「・・・特に破損はしてない、よな?」


「そうだね」


「今の所、分かってるのは。


『外側を見ただけでは、《呪い》は発動しない』。

『触るのも大丈夫』。


これだけだよな?」


「奪還する際にマーカスも『見た』けど、平気だったでしょ?

そして私も、手に取ってケースに放り込んだのに異常は無し。

どちらも短時間ならオーケー、ってことじゃないかなぁ」


「・・・・・・」



ケースの中に横たわった巻物は、端のほうが破れてボロボロだ。

牛皮らしいが、パピルスにも見える。

あと、『巻物』と言っても、紐で(くく)ってはいない。

何となく巻かれたような形状であるだけで、実際には潰れて折れ曲がっている。


あー。

古い時代の発掘物とかって、日光に当てちゃ駄目なんじゃなかったっけ?

あと、空気。


いや、でも『エンブリアス・ブライト』の奴らも、特に対策はしてなかったな。

普通のガラスケースに入ってたし。

鍵付きの部屋ではあったけどさ。


まあ、何か《これ》に問題があった時は、連中のせいにしておくか。



───さて。


当然、中を見るつもりなんて微塵も無い。

触るの自体が、論外。

一般のゴミとして出すか、リサイクル業者に引き取らせるか迷うような代物だ。

その上、汚らしいだけでなく危険物、ときたもんだ。


───慎重に、右手をかざしてみる。


いや、何となく『格好付け』でやってみたんだけどさ。

意外にもそれで、分かってしまった事がある。



「・・・シン。

これ、《何か》が2つ掛かってるぞ」


「2つ?」


「片方は、ええと・・・多分、《呪い》。

どうやって外せばいいのか、さっぱりだ。

ドラマに出て来る、時限爆弾みたいな感じかな」


「ダミーのコードが付いてるやつかい?」


「そう、あれの豪華版。

スパゲッティみたく、絡まってる。

そして、もう片方は・・・・・・そこまで危険ぽくはないんだが。

何の為のものかが、全然分からない。


『専門外』だ。諦めよう、シン」


「ふうむ───あのさ、マーカス」


「諦めてくれよ、頼むから」


「『素人考え』で申し訳ないんだけれども。

その2つって例えるなら、《電気回路》だよね?」


「は??」


「《呪い》も《そうでないほう》も、魔法とか魔術的なものでしょ?」


「一応は、まあ」


「だったらさ。とりあえず少しだけ、流してみるのはどうかな?

《そうでないほう》に、電流ならぬ《魔力》を」


「・・・・・・」


「君、確か出来るよね?

前にやった、《焼き付け》っていうやつ」


「・・・よく思い付くな、そんな事」



思い付かないでくれよ。

思っても、言わないでくれ。

おっさんは本当、頼りになるんだけどさ。

こういう時にナイスアイデアを出されたら困るだろ、僕が!



(───クライマン。こっちの《呪いっぽくないほう》、魔力流して平気か?)



『第二のおっさん』こと、ロザリオの中の悪魔に助言を求める。

若さとは即ち、年配者を当てにすることさ!



”・・・何でも教えちゃいけない、って言われてるんだよぉぉ”


(誰から?)


”・・・マーカスが怖がってる御方にぃぃ”


(今度ギリアム様と会ったら、お前の処罰が軽くなるように頼んでやる)


”えええぇ・・・そんな勇気あるのおぉぉ?”


(お前、嗚咽しながら辛辣な事を言うなよ!

約束しよう、必ずお願いしてやるから。

その代わりに、今回だけは教えてくれ。

《これ》に魔力を流して、僕は無事に済むか?

怪我をしたり、痛かったり、変な精神状態になったりしないか?)


”・・・・・・魔力を流すだけなら、大丈夫ううぅ”


(よし!!グラシアス・ミ・アミーゴ!!)



何故か突然、スペイン語になってしまったが。

心の中、ブレイク達みたくニカッ!と笑顔でサムズアップ。


これで最低限の安全は保証されたぞ。


悪魔はともかく、《魔法的なもの》をナメてはいけない。

まともに喰らったら、死ぬ場合だってあるだろう。

クライマンの力で確実に回避できるのは、物理のほうだけらしいからな。


ストーンブリッジは、叩いてから渡るのがセオリーだ。



「シン、今からちょっとだけ『通して』みる。

念の為、下がっていてくれよ」


「了解!」



『第一のおっさん』が3歩くらい離れたのを確認し。

《焼き付け》の為の魔力っぽいモノを、ゆっくりと指先まで廻してくる。


これをどうしたら通した事になるのかは、イマイチ分からないが。


落書きでもしてやるか?

一定時間で消えるようにしておけば、ハゲ達の怒りを買うこともない筈。



ええと───何を書くべきだろう。



エフ・・・ユー・・・シー・・・ケー・・・



まずは、そこまでを刻んだ時。



───巻物の表面が突如、ぼこり、と盛り上がった。



「!!」



灰色の粘土じみた楕円形のそれが、パクリと水平に割れ開いて。

内側から《眼球のようなもの》が露出し。



”───うわッッ!?”



いきなり、そいつに絶叫された。

視覚的な事よりその声にデカさに、こっちも驚かされた。



”何だ、お前ッッ!?”


「何だ、お前ッッ!?」



互いに同じ内容を叫ぶが、僅かにもその言葉が重ならない。



何故なら。

向こうが喋ったのは、《悪魔語》。



何でだよッ!!

巻物の正体って、悪魔だったのか!?


どうしてそんなのが、遺跡から発掘されるんだ!?



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― 新着の感想 ―
[一言] これ、もし本当に聖書の一部ならカトリックの正当性がズタボロに、、、
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