412話 LV100の手品 03
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───自分の弱さを感じる。
───内面の、心の脆弱さを。
予期せぬイベントはあったものの、とりあえずの近況報告が終わり。
後はさっさと自室(二階)へ上がって荷物を取れば、用は終わりなのに。
ダラダラとリビングに居座り、大して意味も無い話を続けている自分。
久し振りに会った母親が、懐かしい訳じゃあない。
すでに会話なんて、途切れ途切れだ。
お母さんのあたしへの興味は、アパートの件でもう、終了していて。
”夕食は、お寿司でも頼もうかしら”。
”明日の朝は、パンでいい?”。
その確認を最後に、向こうからの話題提供や質問は途絶えている。
学業の事とか話してはみたけど、『喰い付き』は皆無。
まあ、あたし自身が講義に身を入れてはいないから、文句言えないけどさ。
第二外国語がギリシア語じゃなくフランス語なら、反応してくれたかもだけど。
───要は、構ってほしいのだ。
───認めてもらいたいのだ。
もうじきハタチになろうとしてる、この年齢で。
母親の気を引きたくって、そわそわしてる。
上手くいかずに歯軋りしてる、っていう状態。
世間一般と比較すれば、かなり早い段階で『自立心』を確立したけれど。
あたしの成長過程において欠けまくっていたのが、《認められること》。
《褒められること》。
普段は《SNSでの認証欲求》とか聞いて、”ああ、そう”と流していても。
いざ、こうして母親と顔を合わせたら、他人事じゃなくなって。
”馬鹿臭いよ、意味無いじゃん”って笑う心中の声の、あまりに小さいこと!
悔しいなあ。
子供みたいにこんな事を考えている自分が、すごく悔しい。
───だから、チャンスだと思った。
───”大学生の間は何をしても自由だけど、将来の事は考えておいてね”。
───そういう、親としての『当たり前』を言われた時に。
───今しかない、と思ってしまった。
「就職活動とか、そういうのはやらないと思う」
「理由は」
「他の人と同じフリは、大学卒業時で終わりにするつもり。
そこからは先は、魔法の勉強だけに集中したい」
「魔法?」
「あたしは、《魔法使い》だから」
「そうなの」
ほんとに、びっくりするくらい薄い反応だ。
普通、自分の娘が《魔法》とか言い出したら、正気を疑うべきでしょ。
かなり盛大に。
それとも。
そうしないのは、爪の先ほども話を信じていないから?
───あたしの中で、もう一段階上の覚悟が決まった。
篠原センセから、悪魔の事はみだりに口にしないように言われてるけどさ。
《魔法に関して》なら、別にいいよね?
魔法使いだけの、秘密の協会組織とかあるわけじゃないから。
秘密を漏らした制裁で、刺客がやって来て闇に葬られるとかもない筈。
多分。
そりゃあ、あたり構わず吹聴出来ない話だとは、分かってるよ?
けど、お母さんにくらいは構わないよね?
どうせ誰にも喋らないと思うし。
だから。
それなら。
「お母さんは、《魔法》って見たことある?」
「ないわね」
「じゃあ、見せてあげる」
「ん」
ようやく、というか渋々という感じで、広げている雑誌から顔が上がり。
それを確認してから。
あたしは無詠唱で───




