411話 LV100の手品 02
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唐突に実家へ帰ったのは、大学が春休みだからじゃなくて。
ただ単に、荷物を取りにだ。
”来週あたり、バスケやろうぜ!”、と『お兄ちゃん's』からお誘いが掛かった。
頭を使うのは魔法の研究と、集会所でお年寄り相手に打つ将棋で足りてるけど。
深刻な運動不足の解消をどうするべきか、丁度悩んでいたところで。
バスケなら、中学でやってたじゃん!
もしかして、あの頃のバッシュとかまだ履けない?
あたし、あれから全然背も伸びてないから、サイズもいけるでしょ!、と。
若干の悲しさを含む思いで、我が家の扉を叩いたわけ。
スポーツバッグとかも、デザインの古さを気にしなければ平気。
何でも新品で揃えてたら、お金がかかるし。
以後、どれくらいのペースでバスケをやり続けるかも不明なのだ。
買うとすれば、ウェアだけにしておくべきだろう。
まあ、二階へ上がりクローゼットの奥を探すのは、後にしよう。
形ばかりのお土産として焼き菓子の箱を渡し、リビングのテーブルにつき。
しばらくしてから、湯気の上るコーヒーカップが目の前に置かれた。
「電話の一本くらい、かけてから来ればいいのに。
いきなりで、びっくりするじゃない」
自分の分も置いて、向かいに座る母。
その声も表情も平坦で、少しも驚いているようには感じられない。
「ちょっと、中学時代の物とかね。使えそうなら持っていこーかな、って」
「そうなの?
てっきり、”大学を退学したい”とか言いに来たかと」
んー。
それ、前に篠原センセからも聞いたよ。
とりあえず、あの時と同じように返しとこうかな。
「あのねー。あたし、そこまで信用無い?」
「だって、薫。
あなた、アパートに帰ってないでしょう。ずっと」
「・・・え?」
完全に、予想外。
いきなりだ。
早くも冷や汗だ。
「・・・何で、そう思うの?」
質問に質問で返すのは、マナー違反だけど。
体勢を立て直すには、時間稼ぎするしかない。
「電気、ガス、水道の使用量を見るとね。
季節や実際の気温、湿度が反映されてるし、多少の『揺らぎ』もあるけど。
どうもこう、不自然なのよね」
「・・・・・・」
ちょっと待ってよ。
確かに、仰る通りの要素を加味して、そこにランダムな値も加えてますよ。
なのに、それでどうして『不自然さ』を感じるわけ?
「向こうで彼氏でも出来たの?そこに転がり込んでるとか?」
うう。
駄目だこれ!
母は殆どの事に関心が無いが。
一旦興味を持たれたら、喰い付かれてしまったら、ジエンドだ。
下手に誤魔化すのは止したほうがいい。
「・・・まあ、その。そんなところ」
「どんな彼氏?学校の同級生?」
「・・・ジョニーっていう、パピヨン。
気が小さくて、よく吠える奴」
「何それ」
フランスの『輸入もの』らしき雑誌を読みながら、顔を上げない母。
それでも、微かに笑った。
声だけで。
「だったら、そうね。
いつそのワンちゃんに追い出されるか分からないし。
一応、家賃は払い続けてあげるけど。
光熱費とかは妙な細工をしないで、基本料金だけにしてね。
勿体無いでしょ」
「・・・うん。分かった。
下水の匂いが上がらないように時々、水を流す程度にする」
「ええ」
うはーー。
あっぶないなぁ。
何とか、追求を振り切れた?
咄嗟に馬鹿犬を盾にしちゃったけど、それが良かったのかな。
いい感じのギャグとして、ツボに入ったのかも。
───こっちは一瞬で、ザックリと精神を削られたけどね!




