表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
412/744

410話 LV100の手品 01


【LV100の手品】



昔から、家族の事は極力、言わないようにしてきた。

『それ系』が話題にのぼる時は、さり気なくその場を離れるようにしてきた。



”XXXさんのお父さんって、何の仕事してるの?”



この手の質問に正直に答えちゃうと、さぞや喰い付きが良いだろうけど。

こっちとしては、それで目立ちたい訳じゃあない。

むしろ放っておいてほしい。


ただの一般人。

ただの一般家庭として、普通に暮らしたいだけなのだ。




まあ、父親は───《裁判官》だ。


正式に呼称するなら、『高等裁判所の所属判事』であり。

持ち回りで《裁判長》として職務を果たすこともある。


法学部、法科大学院と進み、司法試験クリア。

一発合格とかは、当たり前の事で。

そういう人間達の中でも上位の、ひと握りだけのエリートofエリート。

凄く真面目で、頑張り屋な性格。


きっと、これからもまだ出世するんだろうな。

そろそろ高等裁判所・長官の席が見えてきたところ、なのかな。



そして、母親は───《翻訳家》。


フランスの書籍を訳すのが主な仕事だけど、映画の和訳字幕も手掛けている。

仕事量から見て、かなりの稼ぎがあるのはあたしでも分かる。

一部の業界での有名人、という感じだろうか。

ネットで調べると、それなりにヒットするし。


フランスに関する事しか興味が無い、かなりの変わり者だけど。



とどめに、姉は。

東京のTV局に勤務の───いわゆる《女子アナ》。


名門中学、名門高校を経て、難関とされる大学にサクっと合格。

メディア関係のみに絞って就職活動して、危なげもなく複数の内定確保。

そして現在では、お茶の間で人気の《おねえさん》というポジションだ。

きっと多くの女子が(うらや)むような階段を、笑顔で駆け上がってる状態。


芸能人と結婚とか、あるのかなー、やっぱり。




───お分かりいただけただろうか。


仁生(にしょう)家の諸々(もろもろ)は、よそ様にお話し出来ない。

とてもじゃないが、こんなのを口にしたら最後、妬みの的。

イジメや陰湿な嫌がらせの対象になりかねない。


けれどね。

そりゃ職業は特殊かもしれないけど、これでも《一般家庭》だ。

皇室の血統でも、巨大企業の創始者でもない。

住んでる家だって、ごく普通の大きさだ。


職種なんて、ただの飾り。


むしろ、一般的でないのは『素の部分』。

個人の資質かもしれない。



ぶっちゃけてしまうとさ。


ウチで普通なのは、お父さんだけです。

お父さんのみ、《普通の人》。


頭が良い、それだけですぐに他人様(ひとさま)は、”天才だ”なんて言いたがるけど。

お父さんはとても努力して、ひたすらそれを繰り返して、現在(いま)がある。

そうしないと絶対に、裁判官にはなれなかったと思う。


言い換えれば、頑張らなければ『ただの人』レベル。


規則で許されているなら、エリートにはいつからでもなれる。

だけど《天才》には、後からなることができない。


そりゃお父さんの『地頭』は良いから、IQテストの結果なら上位だろうけどね。

あたしからすれば、そういうのは特に凄い事でもない。

ただの《並》、という感じ。



───あたしと姉、お母さんは、いわゆる《天才》型。


傲慢と(そし)られようが、これは(まご)うこと無き事実。

そういうふうに生まれてきたのだから、そんなものなのだ。


《天才》は、ほぼ努力を必要としない。


あたしだって、魔法に関する以外は特段、努力なんかしてこなかった。

どうにだってやってこれた。


それは、姉やお母さんも同じ事。



───ただ、あたし達3人、それぞれのタイプはバラバラだ。



あたしと姉を比べると、表面的には似ている。

学校の勉強だの試験だの、そういう結果なら差は無い。


あたしは《魔法使い》として生きる決心をしたから、学歴に(こだわ)らないけど。

受験しなかっただけで、姉と同じ大学に合格するのは容易い。

そこから先の女子アナとかは、ノーコメントにしても。


姉は、《真っ当な天才》であり。

あたしは、《真っ当でない天才》。


違うのは、『物事の理解のしかた』だ。


期末試験で両者、満点だったとして。

姉は、自分のやり方を誰かに教えて同じ点数を取らせることも出来る。


あたしには、それが出来ない。


自分がどうやって理解、習得したのかを、説明不能。

何故そんな単純な事を他人が分からないのかが、理解不能。



前に夢で見た、《予言の()》。

あそこまでじゃないにせよ、あたしと彼女は少し似ているのだ。


言葉で教えられない。

『それ』は『それ』なのだ、としか。

どうしても他者に解説出来ない課程(プロセス)がある。


もしウチが、伝統芸能に(たずさ)わる一家なら。

姉ではなくあたしに継いだりすると、完全に『詰み』だ。

次代に繋げたとしてもそれは、形式(みため)だけのこと。

本質の部分は永久に失われてしまうだろう。


何の分野でも、《天才》に任せるとこういう『落とし穴』がある。

出来栄えの優劣だけで短絡的に後継者なんか決めたら、そこから先が続かない。

しっかり努力する《普通の人》のほうが、圧倒的に安全、安心なのだ。


まあ、いいけどね。

あたしはあたしだけで魔法を完結させるから、別に構わないし!



そして、残りは。

お母さんについてだけど。



───お母さんは、その。


───本当に、よく分からない。



《天才》なのは、間違い無い。

でも、特殊すぎて理解が届かない。


姉は常々、”お母さんには勝てないよね”と笑っていた。

勿論、母親に逆らえない、という意味ではなく。


あたしも同感だ。

何をやっても、勝てそうにない。


殆どの事柄に興味を示さず、家事も最低限しかやらないお母さん。


けれど。

何かの拍子に、《魔法》へ目を向けたなら。

面白いと感じてしまったら。


きっとあたしは、(かな)わない。

あたしより、ずっとずっと先へ行ってしまうだろう。

絶対に追い付けない。


この世に《神》が存在するならば。

それは、自分の母親かもしれない、と思っている。


冗談でも大袈裟でもなく。

全知全能という意味での、《神》じゃなかろうかと畏怖しているのだ。


自ら視野を(せば)め。

好んで檻の中に閉じ籠もっていても。

その実、やろうとすれば全部出来る。

知っている。


母にはそういう得体の知れない、上限が推測不能な『真っ黒い部分』があり。

垣間見えるのだ。

姉と、あたしには。



ギリシャ神話だと、神は(つかさど)る事象で区分され、人間的な個性を与えられていて。

欲に溺れ、嫉妬に駆られ、失敗もする。

その辺にいるような『ただの人間』に騙され、出し抜かれる事すらある。

ゼウス様なんか、大暴れしてクレーム付けてもいいくらいの(えが)かれ方だ。


けれど、ウチのお母さんは違う。

多分、何でも出来て、失敗なんかありえない。


そして。

何故やらぬよう、関知せぬように自分で規則(ルール)を定めたのかが、分からない。

その思考に及びがつかない。



”お母さんて、どんな人なの?”



母だけに限定して問われたなら、あたしは答えるだろう。



”家族で一番の変わり者で、よく分かんないや”



それが正直なところなのだ。


《あたし》という、固有の意識を持つ存在が産み落とされて、すぐ。

『世界には、人間の姿をした人間でないものがいる』と教えてくれたのが。


こともあろうに、実の母親だったのだ。


いや、これ本当、大真面目に。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 史上四人目の、最も真っ当な魔法使いであり、人間を越えた彼女が、こうも評するか、、、
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ