402話 これからも、同じで 02
「突然、《物語》の中からブッ飛ばされて。
気付けば、別世界の地球?
しかもメキシコじゃなく、フランスときたもんだ。
たまげたぜ、まったく」
「そりゃまあ、そうだろうな」
「『お話の登場人物』に、こんな事が起きちまったらよぉ。
丸々一冊、本になったっておかしくないぜ?
《タコス売って30年───50過ぎのオッサンが販売車ごと異世界に飛ばされ、言葉が通じないし国籍も無いんだけど?》、とか」
「タイトル長過ぎだろ、それ」
電気ストーブで暖まりながら、旦那とタバコを吹かす。
実際、『こっちの世界』で意識が戻った時、オレは焦りまくったよ。
通りに見覚えが無いどころか、そこらを歩いてる連中の会話が聴き取れない。
何で、どうして突然ここに居るのかが、さっぱり理解出来ない。
ただただ、違和感。
目に見える風景それ自体は変じゃなく、オレのほうがオカシイ、って感覚。
いっそ、ファンタジーとか未来の世界だったほうが動揺しなかったかもな。
ヘタに解釈しようとせず、完全に諦めがつくからなぁ。
「旦那が駆け付けてくれて助かったぜ、本当に。
フランス語を喋れるようにしてくれたし。
国籍とか身分証明とか、住居も、営業許可証まで全部世話になっちまって」
「はは。アンタが『こっち側』に来た、って知り合いから聞いてな。
絶対困ってんだろうな、と思った。
慌てて公式本開いて、隅々まで目を通したよ。
この世界だって広いんだ、特徴を押さえないと探すに探せやしない」
「前にも言ってたが。何だ、その『公式本』って」
「《物語》を映像化した作品の、設定が書いてある本さ」
「んん?映像化?・・・『そっちのほうのオレ』って、どんな感じなんだ?」
「どんな、って。見た目、アンタとそっくりだぜ?」
「・・・ああ、それでか・・・」
「??」
腰の高さまである、銀色の円柱タイプの灰皿。
そこにタバコの灰を弾きながら、オレは苦笑した。
「旦那。この近くに、芸術大学があるよな?」
「おう」
「昼メシの時間くらいから、そこの学生がよく買いに来るんだが。
そいつらが喋ってるのを、たまたま聞いちまったんだ。
オレに《あだ名》を付けて、仲間内で呼んでるのをさ」
「なんて《あだ名》だ?」
「・・・《ピーターソン》」
「───うへぇ!」
「おっどろいたのなんの。
今は、旦那が用意してくれた名前で生活してるだろ?
なのに、何でオレの本名を知ってんだよ、って」
「まあ、そいつらは映像作品のファンだな。
それも、結構なマニアだ。
アンタの名前は、公式本を買わなきゃ分からない。
その上で、隅々まで読み込まないとな」
「《物語》のほうでも『端役』だからなぁ、オレは」
「だが、作者はちゃんと名前を付けていたわけで。
個性たっぷり、何だかんだで登場回数もあるんだぜ?
有り難い事じゃないか」
「うーーん。そう言われりゃ、そうかもな」
「だろ」
「・・・・・・」
「──────」
「旦那はさ・・・人間じゃないよな?」
「ああ。『悪魔』だよ。
《物語》の中の悪魔とは、ちょっとばかり違うが」
「なんで、オレに色々と良くしてくれたんだ?
放っておいたって、旦那の損にはならねぇのに」
「そんなの、難しく考えなくたっていい。
アンタは『ただの人間』だろ?」
「まあな。大した事ない、普通の人間だ」
「それでいいんだよ。
───『ニンゲン病』にかかってるからな、俺は」
「え・・・?どんな病気だ?」
「いや、俺もよく分かってないんだが」
「おい、何だよそれ」
「だから、気にするなって。
笑って楽しく過ごせりゃ、細かい事はどうだっていいのさ」
「・・・・・・」
楽観主義というか、享楽主義というか。
ホント、深く考えたり悩まない性格なんだろうなぁ。
こっちの悪魔って、そういう感じなのか?
いや。
人間だって、大して変わりはないか。
オレにしても、先々を見越して行動しているわけじゃないし。
『ニンゲン病』、か。
聞いたことねぇ病名だけどさ。
その症状が『これ』だってんなら。
そう悪いモンでもないんじゃねぇかな、きっと。
「・・・なあ、旦那。
やっぱり、バーガー屋なんて止しとけよ。
ここで食っていきな、タコス」
「また準備するとか、面倒じゃないのか?」
「オレが焼きたいから、焼くんだ。
そこにたまたま旦那が居たから、食う。
それでいいだろ?
細かい事は気にすんなって」
「おっと、そうきたか。
───じゃあ、お言葉に甘えて!」
「ああ、任せてくれ!」
おうおう。
食べる前から、いい笑顔するねぇ!
とりあえずオレはさ。
鉄板に向かってりゃ大体、幸せなんだよなぁ。
それを恥じてはいないし、変えようとも思わない。
何処で暮らそうとも、シンプルに生きていこうぜ。
そうだろ?
ピーターソン改め、アントニオ!




