38話 Theater for evil tongue 01
新たな問題児の登場です。
【Theater for evil tongue】
仄暗い、板張りの廊下を進んでゆく。
静寂の世界を打ち破る、音、音。
ここにいるべきでない『異物』が撒き散らす、反響音。
自らの靴音が、やけに騒々しく聴こえる。
───ああ。
───面倒くさい。
それに、五月蝿いぞ、本当に。
普段よりもゆっくりと、静かに歩いてるつもりなのに。
マーカス・ウィルトンは今、非常に不機嫌だった。
自分でもそれを認識しているし、理由も分かり切っている。
数分前までいた礼拝堂では、あんなに安らいでいた心が。
この『一般信者立ち入り禁止』区画に入った途端、この様だ。
さぞかし、ひどい表情をしているだろう。
擦れ違う者など、一人もいやしないが。
───くそっ!
───『ここ』は最低だな!
礼拝堂の荘厳かつ華麗な装飾に比べ、質素だから───
ではない。
ここは、まやかしの舞台。
虚飾の領域。
されど、『倹約』という言葉の、真反対。
馬鹿には分からないだろうが、相当の金がかかっている。
『古びた感じ』。
『質素で、重々しい感じ』。
ぽつぽつと灯る燭台の錆び。
やや不揃いな床板も、それが奏でる軋みも。
全ては、計算済みで設計されている。
『それっぽさ』を出す為に。
近代どころか現代建築のこの教会に、全くそぐわない金のかけ方だ。
ここを通る者など限られているのに、無駄が過ぎる。
ああ、断言しよう。
神が地上に御姿を現す事があっても、ここへは絶対に降臨されないだろう。
絶対に、だ。
───悪趣味、極まりない!
───ここの関係者全員、呪われろ!
───あと、僕はこの仕事をしたくない!!
いつの間にか辿り着いてしまった、突き当たりの扉の前。
マーカスは、怒りを多分にはらんだ、重い息を吐き出した。




