02話 燃えるNY(その2)
「10万人って────ホロコーストのレベルですよ!?
間違い無いんですか、ボス!?」
「いや・・・ノイズが濃すぎて、形は分からねぇが。
量を例えるなら、人間の死体10万人分。
これは間違い無ぇな・・・」
「と────とにかく、行ってください!急いで契約を!!」
「お、おう」
焦りながらも、最後の最後に鏡の前で髪の流れを確認する、ヴァレスト。
「早くっ!!」
「分かってる!!」
闇色の霧がその姿を包み込み、ゆっくりと消え。
・・・かけたところで、金属を叩き合わせたような音。
直前の位置から1フィートほども後退し、たたらを踏む悪魔。
「ボス!!何やってるんですかっ!?」
「いっっってええ!
・・・つーか、おい!!これ、『召喚』じゃねぇぞ!!」
「────ええっ!?」
「“Azuraft ilu comit(汝、さっさと来い)”じゃなく!
“Forraft ilu vorlt(我を早く送れ)”だ!」
「『召喚要請』!?
無礼者め!!どこの賢者気取りかっ!!」
「んな事、言ってる場合じゃねぇよ!
あちらさんとの接続が弱くなってきた!
これ『呼べなかったら』、点数ペナルティーで−100じゃきかねぇぞ!?」
怒りのあまり本来の形に戻りかけている秘書を、ヴァレストが叱咤する。
「そ・・・そんな、無茶な!!」
「ああ!!マズい!時間が無ぇ!
直でこっちへ飛ばすぞ!!
目一杯、結界張れっ!!ビルが消し飛ぶっ!!
カウント、スリー!!!」
「は、はいっ!!!」
そして────きっかり、3秒後。
応接室の中央に、うねり狂う竜巻と気違いじみた雷光が乱舞。
この世の終わりとしか表現出来ぬ轟音と共に。
調度品の類は全て爆砕、焼却された────
「ぶおっ!・・・ぶはあっっ!!」
壁に叩きつけられ、粉塵を吸い込んで咳き込むヴァレスト。
「この、ドチクショウが!!
うちの事務所が滅茶苦茶じゃねぇか!!」
とりあえず、視界の隅に秘書の無事を確認し。
涙目で舞い上がる塵芥を振り払う。
「馬っ鹿野郎!
用件は何だ、ああっ!?
『缶詰開けろ』とかだったら、三枚におろすぞっ!!」
「・・・わけ・・・ま・・・せ・・・」
「ああんっ!?聞こえねぇ」
ぞ、と言いかけ。
右足が踏んだ『それ』に気付く。
白い羽根。
羽の塊。
翼である。
「おい・・・おいっ!お前っ!!」
千切れた巨大な翼を抱きかかえ、部屋の中央────
テーブルのあった辺りに目を凝らし。
「ランツェイラか!?
あんた、何やってんだよ!!!!」