393話 笑う仮病者、笑わぬ仮病者 05
”それにしても、最近の天気は酷すぎだよ。
毎日毎日、風風風、雨雨雨で!
これ絶対、普通のハリケーンじゃないよね?”
「まあ、そうだな」
”いい加減、ガツンと言ってやりなよ。
あの丸くてドロドロした『お友達』にさ。
「悩むのも大概にしろ!」「こっちは凄い事になってんだぞ!」、って”
「ううむ」
”君に魔法を掛けてもらってるから、濡れやしないし、吹き飛ばされないけど。
だからってあんな有様じゃ、外を散歩する気になれないよ”
「うむ」
”ねぇ。口先だけじゃなくて、頼むからね?
あとさ。
そろそろ、ちゃんと働いたらどう?いつまでもグダグダやってないでさぁ”
「猫を虐めた者には、必ず報復している」
”あーー、それは凄く有り難いんだけども。
そっちじゃなく、《地獄の支配者》としての仕事だよ”
「───」
”その体、本当はもう治ってるんでしょ?
せめてさ、赤ネズミの何匹かは駆除しなきゃ。
いざという時に君、玉座に戻れなくなるんじゃないの?”
「駆除するのは、中々に骨が折れるぞ」
”自分だけでやるんじゃなくて、応援を呼ぶんだよ。
ネズミも驚いて飛び上がるような、強力な応援を”
横になったまま手脚を限界まで伸ばし、紐のように細くなる猫。
”僕のオススメはやっぱり、赤い髪のおねーさんだね!”
「───彼女は、駄目だ」
ばさり、と読み終わった紙束をサイドテーブルに置き、男は顔を顰めた。
「メイエルは、私の言う事など聞かないよ。
先の大戦でも、あれほど頼んだのに出陣してくれなかった。
それどころか、額を指で弾かれて」
”昔に君がやった分の、仕返しをされただけじゃん”
「私は、あそこまで強くはやっていない」
”ハイハイ、魔王陛下たる御方が、いつまでもグチグチ言わない!
おねーさんだってやり返したんだから、もう気は済んでるでしょ?
今度はちゃんと、君のお願いを聞いてくれるかもしれないじゃん”
「───そうだろうか。
いや、それにしてもだ───その、どう言って彼女を呼び出すか」
”何さ、それ?
『あのお友達』みたいに、些細な事で悩まないでよ。
「結婚おめでとう」とか、何か祝いの品を渡すとかさ。
そういうのでいいんじゃない?”
「───」
”!!!”
瞬間。
目にも止まらぬ速度で、猫が身を起こした。
”えっ!?何・・・えっ!?”
「───」
やや無気力にすぎる表情だった男の目に。
はっきりと感情が灯っていた。
それも、かなり悪い方へ向けて。
「───結婚したのは、いつだ」
”い・・・いつって・・・まあ、最近だけど”
頭を低くした姿勢で耳を伏せ、じりじりと距離を取る猫。
「───」
”知らなかったの?
てゆーか、君・・・その、もしかして”
「───寝る」
”うわっ!?ちょ、ちょっと!?”
掛け物を掴んで荒々しく引き上げ、身を横たえる男。
「100年は起こさないでくれ、キング」
”いやいや、何言ってんのさ!?駄目だってば!!”
角の上まで完全に被って『ふて寝』した男に、猫が叫んだ。
”おい、馬鹿っ!!馬鹿魔王っ!!
起きろってば!!ねえっ!!
・・・これ、僕のせいなのっ!?”
人型の膨らみをバシバシと叩いて、蹴って。
必死の攻撃が繰り返されるが。
『それ』はもう───ぴくりとも動く事はなかった。




