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388話 Good Job 05


「私が出ても良かったのよ」


「まだ言ってんの、君?

絶対に駄目だし、もう終わったんだからさ。諦めなって」



頼むから、何度も言わせないでくれよ。


コントラストを若干落とし。

鮮鋭化(シャープネス)フィルターばりばりに効かせて、保存ボタンをクリック。


今ノートPCで編集している映像は、メモリカードに記録されたやつだ。

保証が効かないほど壊れたボディカメラだが、内臓カードだけは無事だった。


まったくさ。

あれだけ”姿を変える時にはカメラを外せ”、って言っておいたのに。

真面目にこれ、高いんだぞ。

酔っ払い狼め!



「結局、《爪》の出処(でどころ)に関しての証拠は無いわね」


「そりゃあね。

カールベンが、まるっと食べちゃったし」




───《爪》というのは、威力偵察の為に送り込まれた戦闘員の俗称。


領地の境界には、『領地線』が引かれているけど。

そこに常時、誰かを配置して見張っている訳じゃあない。


実質的な『警戒ライン』は、何処なのか。

どれくらいの感度、どの程度のタイムラグで反応するのか。

迎撃にあたる数は。

その総合戦闘力は。


こういった事を体で試し、情報として持ち帰るのが《爪》の役目だ。


どのみち、生きて帰せはしない。

捕らえて尋問するにしても、奴等だってその対策くらいはしてる。

手間暇を考えたら、さくっと殺すのが一番。


ズィーエルハイトは、3つの他家と隣接した形だ。


ガニア、ベイジン、イドール。

一番揉めてるのはガニアだけど、今回は位置的にイドールが『臭い』。


まあ正直なところ、どこが放った《爪》でも構わない。

こちらからすれば、全部『敵』だ。

どんな名前の『敵』だろうと、これ以上の攻撃的行動をとるなら、対処する。

一族全て、総動員で戦争する腹だ。

その方針は昔からずっと変わらないし、反対するつもりもないさ。



ただし、危険度がそれ未満の場合は。

『ズィーエルハイト最後の良心』として頭首を(なだ)めるのが、分家衆・筆頭。


いやはや。

胃が痛くなるお仕事だよ。




「──────」



ああ、まただ。

胃痛の原因が、そわそわと横を見ているぞ。



「もう()めときなよ、ホント」


「ええ。分かっているわ」



ぎりぎりで踏み(とど)まってる感じの表情で、頭首様が仰る。



眷属ではないのに態度の大きな狼男、カールベンは。

今夜、とても良い仕事をしたと褒めてやっていい。


カメラは完全に壊れたけど、それでも『Good Job』だ。

ズィーエルハイトは《爪》を、吸血鬼(こちら)の情報を一切漏らさず討ち取った。

向こうにだけ損害を与える、ベストな形で勝利した。



そして彼は。

今も尚、『良い仕事』を続けている。


壮絶な表情(かお)で落ち込みまくっていた竜の、新たな対戦相手として。

リバーシ盤を挟み、呼吸(いき)を飲むほど白熱した勝負を繰り広げている。



うん。


とても、低レベルではあるけどね。


ファリアは公平だから、両者に助言こそしないが。

”もし自分が打っているのなら”と考えれば、物凄い難易度だろうなぁ、これ。


頭の中、フル回転してるんじゃないかな?


次々と繰り出される、『予想外の失策』への対応で。



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