385話 Good Job 02
「───吸血鬼」
ガタン、と音を鳴らし、ファリアが椅子から立ち上がった。
ヤバい。
目が本気だ。
It's the ズィーエルハイト。
”必ずや叩き潰す!”っていう、闘争心に満ち溢れておられる。
「領地侵害よ」
「落ち着きなって。
まだギリギリ、こっち側じゃないだろ。緩衝地帯だよ」
「入ってからでは遅いわ」
「単なる『出家』かもしれないし」
「いいえ。棺桶を引いていない。
これは明確に、我が領地への侵攻よ」
ちぇっ。
こんなブレブレの映像なのに、良く見てるなぁ。
まあ、わざと棺桶引きずった領地侵害、というのも可能だけどね。
恥ずべき行為とされてるから、誰もやらないだけで。
昔のズィーエルハイトはそれすら、お構いなしだったらしいけど。
「とにかくさ、座りなよ」
「でも」
「最大戦力が、自ら前線に出てどうすんの。
こういう時の為のカールベンだろ?」
ノートPCの画面に、視線を戻す。
ハイライトのきつい、モノクロ映像。
民生品では最高グレードの、夜間撮影用ボディカメラなんだけどさ。
いくらなんでも、ブレが酷すぎないか?
あの狼、《補正モード》をオンにするの忘れてるな。
おまけに、音声が全く届いてないぞ。
ネットワークの不良?
それともアイツ、手荒に扱って壊しやがった?
「やっぱり、ここは私が」
「駄目」
「もしもの事があるかも」
「駄目だってば」
ああもう!
どんだけ戦いたいんだよ、君は!?
いいから、おとなしく座ってなさいっての!
「───なあ、ファリア。リバーシをしよう、リバーシ」
「え」
「昔はよく遊んだだろ?
あれから俺も、かなり腕を上げたんだぜ?」
うっ・・・おええぇ。
気障ったらしいウインクが、ファリアに浴びせられ。
そこを通り抜けた余波が、無防備な僕にヒットした。
うぐぐ。
いや、ナイスフォローだ、アル!
丁度お前が遊びに来てて、助かった!
ジェントルな感じでファリアの肩を抱き、椅子に座らせる《似非紳士》。
流れるような動作で取り出された、リバーシ盤。
「でも───アルヴァレスト」
「なあ、いいじゃないか。こういう事は、クライス達に任せてだな。
せっかく来たんだし、お姫様には俺の相手をしてもらいたいな」
「───!!───」
・・・よし。
オチた。
偉いぞ、アル。
しばらく君ら、遊んでなよ。
こっちにまで『ラブラブ光線』を飛ばさない程度にさ。




