383話 危険な男 07
恐るべき枢機卿が、穏やかに笑った。
演技者じみた自己陶酔など、僅かにも含まない無情さで。
窓の外の心地良い日差しと同じ暖かさで、本当に優しく微笑んだ。
「そうしたことを終えた後、じっくりと『本物の武器』を探すと良いでしょう。
敵対者の手足を、場合によっては首を、一撃で刈り取る武器を。
鋭利な情報を。
期せずして乱された彼等の『踏み脚』を、よく観察することだ。
これからは貴女が舞台の中央に立ち、捕食者だった筈の者達を踊らせるのです。
何を信用するべきか分からなくなり、混乱し、不安になって。
心配のあまり、貴女の顔色をちらちらと窺 いに来るように。
誰にどんな策を講じる時も、まずは真っ先に貴女の挙動を確認するくらいに。
そうやって貴女は、『平和主義』を。
貴女の望む『貴女だけの現状維持』を、貫き通すべきかと」
───ああ。
───なんて狂気的で、身も心も凍らせるような男だろう。
あたしは、職務における具体的な事を、何一つ話してはいない。
漠然とした状況を、よくある愚痴として零しただけ。
それこそ、《茶飲み話》の一環。
”ああ、そうなんですか”と、聞き流したっていい類。
なのに、これだ。
こんなものが返ってくる。
身の毛のよだつ策謀が、当たり前の如く口にされる。
───あたしの脳裏にふと、一人の人間の顔が浮かんだ。
あれは、十年と少しほど前。
出動した班員達の帰りが妙に遅く、戻ってきた者も様子がおかしく。
これは何かある、何処で油を売っているのかと調べた時のこと。
皆が集まっていたのは日本の、とある山中。
月明かりに照らされ、まだ若い男が一心に刀を振るっていた。
疾り、飛び退き。
時には、木立を盾にし。
目には見えない『何か』と斬り結び、男はそれらを斬り倒していた。
延々と。
気が狂うほどに。
それを遠巻きにし、喚ばれた訳でもない女淫魔(あたし達)は息を潜め。
声の1つも掛けられずにただ、見守っていたのだ。
夜が明け、男が山を下りるまで、ひたすらに。
───リスヴェンというこの老人は、あれと同類だ。
男というものは。
目の奥、腹の底に、『恐いもの』を宿していなければならない。
笑っていようが、誰に何を言われようが。
いざとなれば、一瞬で全て捻じ伏せてしまうような、暴力手段。
そういうものを秘めてなくっちゃね。
さり気なくマギルのほうを見れば。
予想通りの顔、というか表情。
”どうだ”、と言わんばかりの!
まあね。
あたしが連いて行くのを、妙にあっさりと認めたのは、これかぁ。
『出来のいい孫』を自慢したくて仕方がなかった、と。
うーーん、やられちゃったなー。
スコーンといい、孫といい。
あ、そういえばまだ、メープル味のやつは食べてなかったっけ?
ごく自然に、急いでエレガントに確保しなきゃ!
マギルの手前、孫を食っちゃうのはマズいけどさ。
それを我慢する分、スコーンは多目に頂いても怒られないよね?
───ね??




