379話 危険な男 03
「・・・随分と、お疲れのようだな」
「まあねー。
疲れてるっていうか、ストレスよ、ストレス!
なんかもう、衝動的に休暇取っちゃった!」
「休んでも大丈夫なのか」
「いいよ、いいよ!
トップが休めば、下も休暇申請しやすくなるってモノよ!」
確かに、そうではある。
明らかに今思い付いたような、言い訳に聞こえるにせよ。
ちなみに、私も今回は彼女に合わせて休暇を取った。
しかし、ブレイキンとエイグラムには、少しも休みを与えてはいない。
彼等は、休みなど欲しがらない。
サボりながら働くのが好きな、そういう奇特な連中である。
「ねー、マギル。
アンタもどんどん、注文してよー。
あたしばっか食べてたら、恥ずかしいじゃん」
「私は要らない」
「何でさー?ケーキの2つ3つくらい、食べなさいよ。
女子の嗜みとして」
「甘い物はこの後、孫と一緒に食べる予定だ」
「───はあ??孫ぉ??」
・・・しまった。
我ながら、余計な事を。
気を抜き過ぎだ。
どうにもスランマールと話していると、口の滑りが良くなる。
これが『接客業のプロ』というものか。
「ちょっと、ちょっとぉ!
『子供達』に関しては、聞いてたけどさ!
アンタ、孫まで育ててんの!?」
「・・・育ててはいない。少し、面倒を見ているだけ」
「甘い物の面倒?」
「たまに作って持って行く」
「いやいや。それもう、普通に《おばあちゃん》だから!」
「・・・・・・」
「ねーねー、マギルおばあちゃん!」
「お前のような孫はいない」
「アタシも、その孫とやらに会ってみたいなー!」
「・・・・・・」
「ほら、せっかく休暇取ってきてさー。しかも、地上じゃん?
日常とは違う、素敵なサプライズとかあってもいいと思うんだけど!」
「・・・・・・」
「お願い!ちょっとだけ!
ちょっとだけでいいからー!」
「・・・・・・。
孫の教育上、品の無い行動は慎むように」
「うんうん!
勿論、分かってるって!
『マギルおばあちゃん』のお友達、って立場で紹介される訳だし。
まあ、見てなさいよ。
完璧に上品で瀟洒な、『あたし』でいくから!
地上で言うところの、《超高級店》な感じで!」
「・・・・・・」
・・・これは、危うい。
明らかに危なっかしく、とても心配だ。
少な目に見ても46%程度の確率で、何かやらかしそうな予感がする。
けれど、それを分かっていながら、彼女の要望を受け入れたのは。
最近の私に生じた変化・・・これまで無かった感覚。
新たな『欲望』を、かなり持て余しているせいなのかもしれない。




