378話 危険な男 02
「マギル、アンタさぁ。サキュバスやってみない?」
期間限定Snowデコレーションのフォンダンショコラを、フォークで切りつつ。
スランマールが、突拍子もない事を言い始めた。
「今、《dry & coolな『おねぇさん』タイプ》が足らなくってさぁ。
ああ、いや。種族とかはね、どーでもいいのよ。
搾るモン搾ってくりゃ、全然問題無いからー」
「・・・こちらには、問題しかない」
「えーーー?そうかなぁ?」
「そう」
本当は、もっと色々やり込めたいところだが。
彼女は私の、数少ない『友』だ。
何処の誰から生まれた訳でもなく、気付いたら地獄に発生していた私が。
初めて出会って会話した他の悪魔───即ち、特別な存在。
あまり邪険にはしたくない。
さりとて、”嫌なものは嫌だ”と明言せねば、一気に踏み込んでくる相手だ。
彼女は。
その辺りの加減に些か苦労する、『やや面倒な友』である。
「アンタんとこ、副業禁止だっけ?」
「別に、そうは決まっていない」
「でも、ボスがいい顔しない感じ?」
「・・・・・・」
「あーー、アレだね。
実は、そのボスに惚れちゃってるとか?
いつの間にやら、コーヒーに砂糖もミルクも入れなくなってるし。
これはもう、男の好みに合わせてる、ってヤツ??
マジに惚れてんの?
ねぇねぇ、どうなのよーー??」
「・・・・・・まあ、そこそこに」
勘の鋭いスランマールに対し、『嘘とも言い難い嘘』を返しておく。
その話題に関して、本当のところを打ち明ける事は出来ない。
相談するなど、もってのほか。
女淫魔に対する偏見など持たないつもりだが。
それにしても彼女は、この種の悩みを聞かせるに不適当である。
”ガンガン攻めろ!”
””押し倒して乗っかりゃもう、どうとでも!”
そういう方向の助言になるのが、目に見えているからだ。
「───んん〜〜〜。さすがに、恋路を邪魔したくはないしねぇ。
どうしたもんだか。
いっそのこと、暇してる『男淫魔』でも攫ってきて、女装させよっか?」
「・・・・・・」
ああ、またとんでもない事を。
それで契約をとるのは、完全に《詐欺》だろう。
最後まで至れば確かに、点数としてカウントされるだろうけれど。
・・・視線を動かさず周囲を伺えば。
少し離れたテーブル席の2名が、石のように固まって呆然としており。
男性給仕も主人も、やり切れない表情で顔を伏せている。
ここは、『専門店』。
人間は入店不可能な、悪魔専用のカフェ。
したがって、『意識逸らし』の魔法や結界など必要無く。
よほどの機密でなければ、聴こえることを前提に話しても構わない場所。
・・・それでも、この有様だ。
”聴こえても構わない”と、”聴こえてきても構わない”は大きく異なる。
先程のスランマールの発言は、何らかのマナーに違反していたのだろう。
店内の男性達の夢や希望、漠然とした『何か』を傷付けたのだろう。
女淫魔は基本的に、人間としか交わらないが。
それでも彼等を悲しくさせてしまったようだ。
・・・私には、どうでもいい話だが。




