表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
379/744

377話 危険な男 01


【危険な男】



「サービスの基本は!!

マナーの遵守と、気持ち良い挨拶から!!」



室内に、大声が響き渡った。



「まずは最初に、『はじめまして』!!」


「「「「「はじめましてッッ!!」」」」」


「事を為す前に、『宜しくお願いします』!!」


「「「「「宜しくお願いしますッッ!!」」」」」


「最後は必ず、『有難う御座いました』!!」


「「「「「有難う御座いましたッッ!!」」」」」



肩を組んで円陣を作った女達の目は、ギラギラと輝き。

というか、有り体に言うと血走っている。



「よし!!

今日もごっそりと、(しぼ)り取っていくぞ!!!」


「「「「「応ッッッ!!!」」」」」


「それでは統括、行って来ます!!」



「ああ。気を付けてな」



機械的と思われぬよう、けれど無意味な感情は含めずに返答する。


女達は揃って一礼し、それぞれが転移で消えてゆき。


広い部屋にはただ、自分だけが残された。




ディシャリスをリーダーとする《第158班》は、トップ集団。

月間ランキングで常に3位までに入り、年間を通じても圧倒的な成績を誇る。


今回も、稼ぎに稼ぐことだろう。

全員が(あふ)れんばかり、相当な量の『成果』を持ち帰ってくる筈。



───悪魔の中でも『女淫魔(サキュバス)』は、恵まれているほうだ。


───色々と言われ、(さげす)まれることもあるが、それでもマシなほう。



何せ、利益率が高い。


普通の悪魔は人間と契約して、点数が1だが。

女淫魔(サキュバス)の場合だと、契約で1、男と交わって精液を絞れば更に2点。

合計で3点。


実に3倍の儲けとなる。



───そして、契約点数は『力』。


───悪魔として生まれた者は全て、これが無くては何も始まらない。



貯め込むだけ貯め込んで、何か事業を(おこ)してもいい。

まとまった額と引き換えに《管理職》となるのもいいだろう。


自分は勿論、後者を選んだ。


300年ほど壮絶果敢に仕事して、その点数で《統括部長》の役職を買った。

おかげで日々のノルマからは、すっぱりと開放されて。

しかも月々、給料としてかなりの点数が振り込まれる生活。


ただ、その代わりに、部下の管理をしなくてはならないが。



ディシャリスの奴も、稼いだ分で役職を目指すと公言している。

この調子なら、あと20年くらいで独立か。

おそらくは新たな部署の、部長職に就く。

そして、今の班員達にその下の役を振り分けるてやるのだろう。


まあ、彼女達が出てゆくのはもう少し先の事だ。


それは、まだいい。

仕方無いし、その時には色々と口添えしてやるつもりでもいる。



───問題は、ここ最近の『女淫魔(サキュバス)の減少』だ。



いや、別に種族の出生率が低下している、とかではなく。

女淫魔(サキュバス)としての仕事をしない、離脱者が増えている事。


具体的に言うと、人間界へ行ったきりで帰還しない連中に関してだ。



彼女らが『抜ける』理由は、至極単純。


男だ。

いい男を捕まえた、という訳だ。


そういう男女間の感情に口を挟んだり、引き離すような真似はしない。

しないが、とても困る。


評議会(メナール)としては、悪魔がどこで何をやっていようが問題無いだろう。

例え人間の通貨で買った点数でも、払うものさえ払っていれば文句は言わない。


だが、統括部長である私からすると、損害だ。

手数が減り、それによって持ち帰られる『成果』が減る。

部署全体としての成績が低下する。


中には、男と話し合った上で仕事も続ける、『半抜け』もいるが。

それは非常に稀な事だ。

大抵は、ある日突然帰って来なくて、それっきり。


”男が出来たんだって?”

”良かったね、おめでとう!”


なんて、笑顔で祝福してやれる筈がない。



───じりじりと、所属の女淫魔(サキュバス)が減っている。


特に、日本とアメリカからの未帰還率が酷い。

世界各国の統計で、群を抜いている。


リスク回避策として、その2国への出動を禁止したいのは山々なのだが。

異常にリピート率が高いのも日本とアメリカなので、どうしようもない。




──────はあ〜〜〜。



デスクに書類を投げ出し、溜息をつく。


頭が痛い。

物理的じゃなく、精神的に。


甘い物が食べたいな。

地獄(ここ)には無いような豪勢なのを、腹一杯に。



3日。

いや、2日。


それくらいなら、自分が不在でも何とかなるんじゃないかな??


元々、サボるような奴でさえ、己の為に最低限のノルマだけは果たすし。

稼ぎたくて躍起になっている連中はそもそも、発破をかける必要も無いし。


そうだよ。

休んだっていいじゃん、平気平気!

出しちゃおうよ、休暇申請!



ああ。

こうなってくるともう、駄目だ。


あたしも、いっぱしの悪魔であるが故。


自分の中からの『悪魔的誘惑』に対抗する気など、さらさら無いわけで───



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ