377話 危険な男 01
【危険な男】
「サービスの基本は!!
マナーの遵守と、気持ち良い挨拶から!!」
室内に、大声が響き渡った。
「まずは最初に、『はじめまして』!!」
「「「「「はじめましてッッ!!」」」」」
「事を為す前に、『宜しくお願いします』!!」
「「「「「宜しくお願いしますッッ!!」」」」」
「最後は必ず、『有難う御座いました』!!」
「「「「「有難う御座いましたッッ!!」」」」」
肩を組んで円陣を作った女達の目は、ギラギラと輝き。
というか、有り体に言うと血走っている。
「よし!!
今日もごっそりと、搾り取っていくぞ!!!」
「「「「「応ッッッ!!!」」」」」
「それでは統括、行って来ます!!」
「ああ。気を付けてな」
機械的と思われぬよう、けれど無意味な感情は含めずに返答する。
女達は揃って一礼し、それぞれが転移で消えてゆき。
広い部屋にはただ、自分だけが残された。
ディシャリスをリーダーとする《第158班》は、トップ集団。
月間ランキングで常に3位までに入り、年間を通じても圧倒的な成績を誇る。
今回も、稼ぎに稼ぐことだろう。
全員が溢れんばかり、相当な量の『成果』を持ち帰ってくる筈。
───悪魔の中でも『女淫魔』は、恵まれているほうだ。
───色々と言われ、蔑まれることもあるが、それでもマシなほう。
何せ、利益率が高い。
普通の悪魔は人間と契約して、点数が1だが。
女淫魔の場合だと、契約で1、男と交わって精液を絞れば更に2点。
合計で3点。
実に3倍の儲けとなる。
───そして、契約点数は『力』。
───悪魔として生まれた者は全て、これが無くては何も始まらない。
貯め込むだけ貯め込んで、何か事業を興してもいい。
まとまった額と引き換えに《管理職》となるのもいいだろう。
自分は勿論、後者を選んだ。
300年ほど壮絶果敢に仕事して、その点数で《統括部長》の役職を買った。
おかげで日々のノルマからは、すっぱりと開放されて。
しかも月々、給料としてかなりの点数が振り込まれる生活。
ただ、その代わりに、部下の管理をしなくてはならないが。
ディシャリスの奴も、稼いだ分で役職を目指すと公言している。
この調子なら、あと20年くらいで独立か。
おそらくは新たな部署の、部長職に就く。
そして、今の班員達にその下の役を振り分けるてやるのだろう。
まあ、彼女達が出てゆくのはもう少し先の事だ。
それは、まだいい。
仕方無いし、その時には色々と口添えしてやるつもりでもいる。
───問題は、ここ最近の『女淫魔の減少』だ。
いや、別に種族の出生率が低下している、とかではなく。
女淫魔としての仕事をしない、離脱者が増えている事。
具体的に言うと、人間界へ行ったきりで帰還しない連中に関してだ。
彼女らが『抜ける』理由は、至極単純。
男だ。
いい男を捕まえた、という訳だ。
そういう男女間の感情に口を挟んだり、引き離すような真似はしない。
しないが、とても困る。
評議会としては、悪魔がどこで何をやっていようが問題無いだろう。
例え人間の通貨で買った点数でも、払うものさえ払っていれば文句は言わない。
だが、統括部長である私からすると、損害だ。
手数が減り、それによって持ち帰られる『成果』が減る。
部署全体としての成績が低下する。
中には、男と話し合った上で仕事も続ける、『半抜け』もいるが。
それは非常に稀な事だ。
大抵は、ある日突然帰って来なくて、それっきり。
”男が出来たんだって?”
”良かったね、おめでとう!”
なんて、笑顔で祝福してやれる筈がない。
───じりじりと、所属の女淫魔が減っている。
特に、日本とアメリカからの未帰還率が酷い。
世界各国の統計で、群を抜いている。
リスク回避策として、その2国への出動を禁止したいのは山々なのだが。
異常にリピート率が高いのも日本とアメリカなので、どうしようもない。
──────はあ〜〜〜。
デスクに書類を投げ出し、溜息をつく。
頭が痛い。
物理的じゃなく、精神的に。
甘い物が食べたいな。
地獄には無いような豪勢なのを、腹一杯に。
3日。
いや、2日。
それくらいなら、自分が不在でも何とかなるんじゃないかな??
元々、サボるような奴でさえ、己の為に最低限のノルマだけは果たすし。
稼ぎたくて躍起になっている連中はそもそも、発破をかける必要も無いし。
そうだよ。
休んだっていいじゃん、平気平気!
出しちゃおうよ、休暇申請!
ああ。
こうなってくるともう、駄目だ。
あたしも、いっぱしの悪魔であるが故。
自分の中からの『悪魔的誘惑』に対抗する気など、さらさら無いわけで───




