371話 不遜な英雄 02
薄暗い会議場。
最も入口側に近い、明らかに簡素な造りの椅子に座り、脚を組んだ。
───しばしの間を置いてから、天井の照明が灯る。
───前方の数段高くなった席に、魔法の如く複数の姿が現れた。
「全員来い、つったろうがよ」
吐き捨て、睨み付ける。
朱色に白く、罅のような線が走る仮面。
黒のローブの肩口に、評議会の印章。
その数、6名。
横一直線に設けられた席の半分が、空いている。
”あまり付け上がるなよ、ヴァレスト”
”一々貴様の相手をしていられるほど、我々も暇ではないのだ”
「ああ、そうかい。
じゃあ、お前らは特別に暇なんだな。
いっその事、『十二会』なんて辞めちまったらどうだ?」
普段からマフィア、マフィアと散々に揶揄されている俺だが。
こいつら相手だと、本気で態度も口調も荒くなる。
まともじゃない連中と付き合うには、相応の対処が必要なのだ。
そうしたところで、微塵も心が傷まないしな。
───はっきり言って俺は、評議会の議員が大嫌いだ。
別に、権力に逆らって反抗を気取る、思春期の少年じゃあない。
取り敢えず何にでもNOと言う、『自称・皆の代弁者達』の真似でもない。
俺だって、余程じゃない限りは常識的に行動する。
位階が高い相手には、それなりの敬意だって示す。
だが、顔を隠して声も変えるような奴等に、頭を下げる道理は無い。
陛下が療養中なのをいい事に、勝手な法案を通して好き放題な連中だ。
受けた恩は必ず仇で返すような、最低の外道共だ。
その中でも、『十二会』と呼ばれるこいつらは。
俺にとっては吐き気が込み上げる程の、『生涯の敵』なのだ。
”・・・それで、用件は?”
「すっとぼけてんじゃねぇよ、コラ。
約束が違うじゃねぇか」
”・・・・・・”
「俺達、北西部で生き残った者全員、『お前らがやった事』を喋らない。
代わりに、《戦友会》の発足とその活動を承認する。
そういう取引だったろうが」
”・・・・・・”
「支援物資の『転送陣』を、幾つもブッ壊しやがって。
完全な妨害行為だよな?ええ?」
”・・・まったく。
君には理解出来ないのかね、政治的判断というものが”
”そんなだから、二度も降格するのだよ”
「偉いフリしてる馬鹿よりゃ、よっぽどマシだぜ。
お前らは悪魔の風上にも置けねぇ、カス野郎だ。
毎年の《戦没者慰霊祭》に、花の1つも寄越さねぇで。
その上、大法院と『仲良しこよし』か?
悪魔同士の約束より優先して?
大戦の同盟者だったエルフを見捨てて?
もういっそ、天界に亡命しろよ。
お前らが居るだけで、『悪魔』の品位が下がっちまうからよ」
”くだらん感想だな”
”そういうのは手紙にでもして、投書したらどうかね”
「それで、黒山羊さんが食べちまう、ってか?
こちとら『笑い』じゃなく、『実利』を取りに来たんだが?」
”ならば、具体的に言いたまえ”
”生きていて、口が動かせる内にな”
剣呑な雰囲気が漂う、会議場。
しかし、こんなのは初めての事じゃあない。
これまでに何度となくやり合ってきた、おなじみの『交渉』なのだ。




