表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
370/743

368話 我は、ここにあり 04


「───結果が出たぞ。

予想通りだが、全て賛成票で可決だ。


これで、あんた達の《独立国家》とやらは。

《森の戦友支援会》の『協力団体』として、正式に認定された」


「・・・感謝する」



仏頂面で、軽く頭を下げる天使。


こいつ、前に少しだけ見た憶えがあるが。

まさか、もう一度出会うとは。


何だかなぁ。

付き合いの無い奴、それも天使に力を貸す事になるとは、思いもしなかったよ。



「何せまあ、持って来た『土産』がデカい。

こっちで開発中だった《中和剤》は、6割がた組み上がってたんだが。

それが一気に、完成までもっていけた。

試作第一号で、96%の解毒率らしいぞ?

即、量産体制に入るそうだ」



勿論、作ってたのは俺じゃあない。

リーシェンが面倒を見ている、弟子(エルフ)達だけどな。


ゴトン、とスマホを木のテーブルに置き、脚を組む。



「これを喜ばない会員なんて、いやしないさ。

可決して当然。

2、3時間後には、広報担当が公式発表する予定だ」


「おい、ひょうたん!

本当に助かったぞ!礼を言う!」


「・・・あ、ああ」



族長が、ばし、と天使の肩を叩けば。

フォンダイトと名乗る男は、痙攣するように身を震わせた。



「我らエルフも、声明を出さねばいかんな。

アル坊の所の協力団体なら、こちらもそういう扱いをする必要がある。

すぐに、各地の同胞へ連絡しよう!」



席を外すぞ、と声を掛けてから部屋を出てゆく族長。

あんたの家なんだから、別に遠慮は要らないけどな。


だが、《中和剤》の件は、エルフ達にとって特大の朗報だ。

満面の笑みで走るのもやむ無し、ってもんだよ。



───カップに口を付け、薄茶色の液体を飲み込む。



なんだったっけ、これ。

ホウジ茶?


確か、日本の茶だよな?

ここのエルフの誰かが、日本旅行の際に買って来たとか?



「それで、お前。これからどうするんだ?」


「どう、とは」



俺の問いに、一口も飲まずにカップを置いたままの天使が、こちらを見た。



「ええとだな。

まず、《地上の星》とかいう、その独立国家は。

結局のところ、『何処に』あるんだよ?」


「・・・・・・」


「幽霊船みたく、そこら辺を漂うって訳にもいかんだろ?

ちゃんと寝泊まり出来る場所が必要なんじゃないか?」


「我等の所在が何処にあるのか、と問われれば。

《国家建設》を宣言した場所、即ち、ここだろう」


「いやいや、『ここ』って。

そりゃマズいだろうが。

追っ手の天使達が来たら、エルフに迷惑が──────あっ!!」



しまった!!



「おい、お前!!ハメやがったな!?」



思わず立ち上がった俺に、天使は。


にたり、と不気味に笑って、口角を吊り上げる。




こ、こいつ!!



───痛恨のミスだ!


完全に失念していた!



天使がこいつとその部下達を捕縛、もしくは殺害しに来た場合。

《独立国家》と協力関係にあると認めているエルフは、それを放置できない。

美味しいところだけ頂いて見殺しに、なんて絶対にプライドが許さないだろう。


俺が会長を努める《森の戦友支援会》も、同様。


彼等を協力団体として認定したからには、追っ手である天使と戦うか。

最低でも、割って入るくらいはしないと、義理が立たない。


それも、1回、2回の話ではなく。

これから先、何百回でも。

永久にだ。



それを避けたいなら、『土産』に気を惹かれる前に。

まずは《独立国家》としての安定を確認するべきだった!


数日待ってでも、彼等自身にそれを証明させなきゃならなかったのだ!




───ちくしょう、やられた!!



今からこいつらを、何とかして安全な場所へ移さなければならない。


『安全な』とは、防衛や撃退が可能、という事ではなく。

そんなものが必要無い、という意味だ。



追っ手が手出し不可能な場所。


それは───1体たりとも天使が入れない街、ミュンヘンしかない。



この男。

最初から『ミュンヘン入り』が狙いだ。


しかもそれを、自分じゃなく俺にさせようとしてやがる!!



───更には、よくよく考えてみると、他にも引っ掛かる点があった。



『戦術毒の組成式』なんていう特級機密を盗み出し。

部下まで()れて逃走したのに、何故《追っ手》の動きが無いのか。


何せ盗んだ物が、物だ。

それをエルフの所へ持ち込むだろう事は、馬鹿でも予想出来る。


なのに、どうして。

現在(いま)ここに、天使の一団が押し寄せていないのか。




「フォンダイト!

お前、所属を抜けるにあたって、何らかの取引をしてるな?」


「・・・・・・」


「組成式をかっぱらってから、何時間経過した?

猶予は後、どれくらいだ?」


「何の事だか」


「おい!そこは正直に答えろ!

下手すりゃこっちにだって、火が()いちまうんだぞ!?」


「・・・何の事だか、分かりかねる」



まったく───なんて奴だよ!


こんな綱渡りの状況下でも、手札(カード)を切らない。

絶対に弱みを見せない。


流石、《独立国家》をブチ上げて、その『元首』を名乗るだけはある。

並大抵の頭脳(あたま)と、度胸じゃないな。


悔しいが───俺では太刀打ち出来ないレベルだ。



「すぐにここへ、ウチの者達を呼ぶ!

お前らの護衛だ。

何があっても、決して天使と交戦するな。隠れてろ。

いいな?」


「了解した」


「俺は一旦戻って、『調整』してくる!」



残りのホウジ茶を飲み干し、転移陣(ゲート)を開いた。


急がねばならない。

タイムリミットが不明なまま。

可能な限り早急に、こいつらを『ミュンヘン入り』させなければ。


せっかく《限定休戦》となっているここ、リトアニアが。

悪魔(おれたち)まで巻き込んで、天使との大戦争になっちまう!



それも、迂闊(うかつ)な事をやらかした、俺のせいで!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ