367話 我は、ここにあり 03
───リトアニア、ヴィリニュス。
───湖に隣接する深い森。
エルフ族長のライドック・ベルファスは、やや機嫌が悪かった。
理由は、昼寝の途中で起こされたから。
いや、起こしにきた息子のせいではなく。
こんなタイミングでやって来た、《招かれざる客》が悪い。
自分もいい加減、隠居して当然の年齢だ。
出来る事なら日がな一日、寝っ転がっていたい。
長く族長をつとめてきたのだ、それくらいは許されるだろう。
もう少し、世が平和でさえあったなら。
紅葉も終わりつつある木々を抜け、森の入り口まで向かえば。
そこに立っている《忌々しい客》は、見知った顔だった。
「───なんだ、『ひょうたん』か」
「・・・久し振りに、お目にかかる」
「ええい、やめろ!お目にかかりたくなんぞないわ!
用件は何だ?
そろそろ、《限定休戦》とやらも終わりか?」
「いや。今の私は、そういった作戦とは無関係の立場にある」
「あ?」
「用件は、これだ・・・『これ』を渡しに来た」
「───?」
差し出された『水晶の薄い円盤』を受け取る。
「何だ?何かの文書か?
紙に印刷してから持って来い、阿呆め」
「戦術毒VX-15Mと、その派生版の《完全組成式》だ。
あと、次期VX-16の候補も含まれている」
「───何!?
お、お前、よくそんな許可が!
いや、許可など降りるわけが!!」
「・・・盗み出した」
「はあぁ!?」
「中和剤自体の組成式や現品は、無理だったが。
これを元にすれば、作成出来るだろう」
「何で、そんな事を───」
思わず大声を上げる、その寸前。
ライドックは叫びを飲み込んだ。
目の前の天使の、様子がおかしい。
後ろにいる部下らしき連中も、目が虚ろだ。
「おい、ひょうたん。お前、どうした───大丈夫か??」
「・・・問題、無い」
「いや、顔色がだな。真っ青を通り越して、真紫だぞ??
それに、さっきからずっと震えて」
「・・・問題、無い」
「──────」
振り返れば、自分に連いてきた古参や若いのも皆、首を傾げている。
天使達の震え方は、尋常ではない。
発汗量も相当だ。
もしかして、変な『流行り病』にでも罹患しているのか?
「なあ。ちょっと座って、休んだほうが」
「・・・わ、我々は」
「ん??」
「・・・我々はッ!!
この11名の命をもって、今ここにッ!!
《独立国家・『地上の星』》の建設を宣言するッッ!!!」
「───えっ!!??」
「その始まりにあたって!
ヴァレスト・ディル・ブランフォールとの、話し合いを持ちたいッッ!!」
「───ええっ!!??」
何を言っておるのだ、こやつは??
あと、後ろのも。
何で揃いも揃って、泣いている??




