357話 Last Curse 01
【Last Curse】
俺は、若い。
まだ若い悪魔だが。
まあ一応は、それなりの年数を生きている。
面識のある悪魔達は大抵、地上で暮らす奴。
もしくは大戦時、北西部にいた連中。
伝来の妖族も、そこそこ知っている。
ファリア達ほど深くはないにせよ、名前が知れてるようなのとは繋がりがある。
エルフ族との関係は、言わずもがな。
あとは。
人間だ。
悲しいかな、人間の寿命は短い。
油断していると、すぐに居なくなってしまう。
”もっと話しておけば良かった”、”二年前までは元気だったのに”。
後悔したって時は戻せず、残されたほうは墓石に花を置く事しか出来ない。
だから、『人間の知り合い』には、意識して会いに行くようにしている。
ふと顔を思い出した。
夢に出てきたから。
訪ねる理由は、何だっていい。
俺が『財宝部屋』に溜め込んだお宝は、かなり量が減ったとはいえ、高価だ。
売っ払おうと思えば即、買い手が付くし、結構な値段になる。
そして。
後々気が変われば、それなりに支払って買い戻す事だって出来る。
しかし、人間達との『縁』ばかりは、そういう訳にいかない。
死んで、別れて。
その後はいつ、何処に転生するやも分からない。
そして、また出会えたとしても、彼等の記憶は全て失われている。
だから、ふらっと会いに行く。
すぐに尽きてしまう時間を、無駄にしないように。
俺自身が、悔し涙を流したくないから。
結局、俺の我儘。
本当のところは、そもそも理由の1つすら必要無い。
───それに加えて、今回は緊急事態だ。
明確に、会って話さねばならない『必要性』があるときた。
10月下旬。
残暑も引いて、ようやく秋めいてきたこの頃。
例年よりやや高めらしい気温は、ゆるやかな風と相まって心地良い。
大都市からはずれた田舎町。
そのまた、はずれのほう。
青く澄み渡った空をゆく、雁の群れ。
下生えの花に止まる、鮮やかな蝶。
太陽の光に包まれ、とても明るく、暖かいのに。
───何故か、この一角だけが薄寒かった。
背の低い苔むした石壁に囲まれた、小さな『あばら家』。
4度目のノックでようやく開けられた扉から覗く、老婆の顔。
「やあ、久し振り」
紳士的な笑みを浮かべて挨拶した俺を、彼女はじろり、と見た。
魔女もかくや、という形相の、不機嫌極まりない目付きで。
「・・・ああ、アンタかい」
しわがれたダミ声で、吐き捨てるような一言。
そこに呪詛とか怨念に近い感情が、たっぷりと込められている。
咲き誇る花が、瞬時に枯れ落ちるような。
清流を泳ぐ魚さえ、水ごと腐るような。
仮に俺が訪問営業だったら、全力で逃げ出して、二度と此処には訪れない。
気の弱い奴だと多分、腰が抜けて失禁する。
これでも今日の彼女は、かなり『マシなほう』なのだが。




