356話 Full Boost、愛の歌 06
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───人間に、天使は見えない。
───『悪魔が見える人間』ですら、隠蔽された天使を見破ることは不可能。
そうでなければ、大騒ぎだ。
深夜3時の、コンビニエンスストア。
その駐車場の片隅で、血塗れの天使達が身を寄せ合い、震えているのだ。
警察が駆けつける。
早朝のニュースに間に合ってしまい、情け無い姿の映像が流される。
「・・・皆、生きているか?
ここまで離れたらもう、大丈夫だ・・・識別信号を出せ」
血の味がする唾液を飲み込み、フォンダイトは点呼をとった。
自分を含め、信号の数は11。
分隊の全員が、ここにいる。
重傷者もいるが、何とか生き残っている。
(まさに───奇跡だ)
それ以外に、表現する言葉が無い。
狂乱状態で走り続け、森を飛び出し。
一度も振り返らず、真っ直ぐ市街地まで逃げてきた。
正直、半数でも生き残れば御の字、くらいに思っていた。
「───隊長」
背中から、声が掛かった。
「隊長が背負ってくださらなかったら、死んでいました。
本当に、有難う御座います」
「・・・当たり前だ。
私は、エリートだぞ?部下を失えば、経歴に傷が付く」
ああ、《経歴》か。
本当に今更だ。
もう出世の見込みなど無い。
夢見た栄華も、栄光も、全て届かなくなり。
暗く狭い穴の底へ、突き落とされたのに。
・・・それなのに。
まだ私は、生きている。
まだこの命は、『終わっていない』。
「あの───隊長」
「何だ」
「リトアニアで、その───隊長を笑って、申し訳ありませんでした」
「・・・ふん。『ひょうたん顔』の事か。
別にもう、いい。
それに今は、私もお前達も、同じ有様だ。
親ですら見分けがつかんような、酷い顔になっているぞ?」
夜空の星を仰ぎ、フォンダイトは笑った。
部下達も笑った。
生きている事が、痛いくらいに嬉しくて。
天使達は皆、泣きながら笑っていた。
───オーストラリア討伐兵団。
その本陣に、50数名のエルフが強襲を掛け。
腰にBT接続のポータブルスピーカーを吊るした族長が、大暴れした。
唄わないまま、再生音であらゆる法術を無効化し。
逃げ惑う天使達を叩き伏せ、跳ね転がし。
そして最後まで息切れせず、総司令官を徹底的に殴り続けた。
───10/18、午前5時45分。
───オーストラリアから、全ての天使が撤退。
事の成り行きを見守っていた《海エルフ》は、岩場から優雅に身を踊らせ。
ゆっくりと海底の棲家へ、還っていった。




