表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
356/743

354話 Full Boost、愛の歌 04



───フォンダイト・グロウ・フェネリは、納得しかねていた。



怒りと怨恨が、胸中で渦を巻き。

視界に入る木の枝を、片っ端からボキボキと折り砕き。

足元を這う虫など見付けようものなら、地に穴が空くまで踏みにじり。


有り体に言って、彼は。

完全に、完璧に、やさぐれていた。



───リトアニアでの失態。


それにより、蒼の始光(アーチライト・ブルー)第2座から下げられることはなかったが。

当然ながら、それだけで済むほど『上』の処断は甘くない。


半分の半分、更にその半分以下に減らされた部下。

そして放り込まれたのは、オーストラリア。

『耳長殲滅作戦』の最前線。


事実上の左遷だ。

”そこで死ぬなら、それでもいいぞ”という、捨て駒扱いだ。


もはや確定的に、自分は出世街道から転げ落ちた。


『口添えしてくれる筈の上席』が、数名いた筈なのに。

その名前もいつの間にか、《組織図》から消え失せている。


終わってしまった。

自分が思い描いていた栄光の道筋は、二度と届かぬ『幻』となってしまった。


来月あたり、恒例の同窓会が開かれるのだろうが。

当然、欠席である。


分隊指揮官の身で、戦地を離れられる訳がない。

そもそも、同期と顔を合わせたくない。


会食にかこつけた自慢大会の場で、自分の『転落』は格好の肴となるだろう。

敗北者には、そんな価値しかない。

そういう道を選び、進んできたツケだ。



───来る日も、来る日も、戦いが続く。


腐葉土の匂い。

虫。

微塵も休まらぬ、森の中での軍隊生活。


耳長どもめ。

さっさとくたばれば良いものを、いつまでも無駄な抵抗を続けおって。


どう足掻こうが、一度散布したVX-15Mの中和は不可能。

貴様らが生きる場所など、もはや無いのだ。


虫のように死ね。

早く滅びろ。


ちまちまと戦っては退()く、その無様な姿も見飽きた。


早く終わらせろ。

いっその事、全滅覚悟で突っ込んで来て、全員くたばってしまえ。


はは。

自分も天使ではなく、エルフとして生まれてきたら良かったのかもしれない。


名声や出世に囚われる事無く、野望など持たず。

最初から地べたを這って生き、そのまま死ぬ。

そういうほうが楽だった、と思える。



───もう、どうだっていい。


───自分はすでに、敗北者だ。



けれども。

この戦いから早く、開放されたい。


ただひたすらに、こんな森から出てしまいたい。



ああ、ああ。

何もかもが、一瞬で全て終わってしまえばいいのに。



フォンダイトは右手を振り、眼前の小さな羽虫を払った。

意外に素早いそれは、するりと(かわ)して尚も飛ぶが。



()しくも、彼の願いは。

想定しなかった形で叶う事になる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ