354話 Full Boost、愛の歌 04
───フォンダイト・グロウ・フェネリは、納得しかねていた。
怒りと怨恨が、胸中で渦を巻き。
視界に入る木の枝を、片っ端からボキボキと折り砕き。
足元を這う虫など見付けようものなら、地に穴が空くまで踏みにじり。
有り体に言って、彼は。
完全に、完璧に、やさぐれていた。
───リトアニアでの失態。
それにより、蒼の始光第2座から下げられることはなかったが。
当然ながら、それだけで済むほど『上』の処断は甘くない。
半分の半分、更にその半分以下に減らされた部下。
そして放り込まれたのは、オーストラリア。
『耳長殲滅作戦』の最前線。
事実上の左遷だ。
”そこで死ぬなら、それでもいいぞ”という、捨て駒扱いだ。
もはや確定的に、自分は出世街道から転げ落ちた。
『口添えしてくれる筈の上席』が、数名いた筈なのに。
その名前もいつの間にか、《組織図》から消え失せている。
終わってしまった。
自分が思い描いていた栄光の道筋は、二度と届かぬ『幻』となってしまった。
来月あたり、恒例の同窓会が開かれるのだろうが。
当然、欠席である。
分隊指揮官の身で、戦地を離れられる訳がない。
そもそも、同期と顔を合わせたくない。
会食にかこつけた自慢大会の場で、自分の『転落』は格好の肴となるだろう。
敗北者には、そんな価値しかない。
そういう道を選び、進んできたツケだ。
───来る日も、来る日も、戦いが続く。
腐葉土の匂い。
虫。
微塵も休まらぬ、森の中での軍隊生活。
耳長どもめ。
さっさとくたばれば良いものを、いつまでも無駄な抵抗を続けおって。
どう足掻こうが、一度散布したVX-15Mの中和は不可能。
貴様らが生きる場所など、もはや無いのだ。
虫のように死ね。
早く滅びろ。
ちまちまと戦っては退く、その無様な姿も見飽きた。
早く終わらせろ。
いっその事、全滅覚悟で突っ込んで来て、全員くたばってしまえ。
はは。
自分も天使ではなく、エルフとして生まれてきたら良かったのかもしれない。
名声や出世に囚われる事無く、野望など持たず。
最初から地べたを這って生き、そのまま死ぬ。
そういうほうが楽だった、と思える。
───もう、どうだっていい。
───自分はすでに、敗北者だ。
けれども。
この戦いから早く、開放されたい。
ただひたすらに、こんな森から出てしまいたい。
ああ、ああ。
何もかもが、一瞬で全て終わってしまえばいいのに。
フォンダイトは右手を振り、眼前の小さな羽虫を払った。
意外に素早いそれは、するりと躱して尚も飛ぶが。
奇しくも、彼の願いは。
想定しなかった形で叶う事になる。




