352話 Full Boost、愛の歌 02
ログハウス。
木の上の、簡素なハンモック。
あるいは、ボロボロの天幕や、寝袋。
点在するそれらの中心に位置した、大勢が腰を降ろせる円形の空間。
便宜上の『広場』。
───今そこに、三百名を超えるエルフ達が集まり、無言で座っていた。
ある者は、シリアルバーを齧り。
ある者は、紙パック入りの濃縮還元ジュースを飲み。
またある者は、《ハンバーグ弁当》なるものにかぶり付きながら。
───完全に陽が落ちた森の、最奥。
───『広場』は静かで、井戸の底のように暗い。
松明などの明かりは無く。
指先程度の大きさの、蛍火に似た光の精霊が数匹、宙を舞うのみ。
しかし夜目の効く彼等には、それだけで十分。
誰もが互いの顔を見分ける事が出来て。
同じ形をしたジュースの味を、間違えずに選べるくらいには。
全員が黙々と食べて、飲む。
誰一人も語らず、余計な音をたてない。
その様は人間で言うならば、激戦地の野戦部隊。
いや、特殊部隊にさえ匹敵する、《戦闘者》の佇まい。
緊張感。
だが。
輪になって座る彼等の一角で、今夜初めての声が上がった。
「・・・皆の者。
食事を摂りながらで構わぬから、これを聴いてほしい」
全員の視線が集まったのを確認し。
声を発したエルフが、青く発光する水晶片に触れる。
”───こちらは、《森の戦友支援会》。
会長のアルヴァレストだ。
今回送った物資は、ヨーロッパ方面のエルフ達と、有志の悪魔からだ。
現在、当会の活動は評議会からの監視と妨害を受けている。
このコンテナが無事に届いていることを、切に願う”
”───オーストラリア在住の悪魔達は、評議会により全員、退去させられた。
よって、そちらの正確な状況が把握出来ていない。
当会は以降、最悪の事態を想定して動くこととする。
具体的に言えば。
オーストラリア封鎖に関して評議会に抗議し、交渉に入る。
公式でも非公式でも構わないから、悪魔が介入する事を認めさせる”
”───それでも、間に合わないかもしれない。
想定以上の、最悪を超えた最悪が今、皆の身に降り掛かっている可能性もある。
故に。
俺は覚悟を決めた”
”───このメッセージクリスタルと共に、俺の『鱗』を同封する。
もしも、戦況が引っくり返せないところまで来ているなら。
迷わずそれを、砕いてほしい。
それを合図として、俺が行く。
必ずそこへ行って、俺が皆を助ける。
決して諦めないでくれ、森の戦友達。
───森と諸君に、精霊の加護があらんことを”




