350話 世界の真実
【世界の真実】
───XXィラーXXワルツは、悩んでいた。
自分の名前が呼び難い事は、知っている。
遠き星に住む者にとっては、特にそうだ。
口蓋や声帯の形状が異なり、制限があるのだから、仕方が無い。
だが。
実は、自分の眷属達でさえも正確に発音出来ていないのは、何故なのか。
これは、”些末である”と放置すべきか。
それとも、子を諌める親心でもって、敢えて指摘すべきなのか。
───XXィラーXXワルツは、悩んでいた。
《神よ》《邪神よ》と讃えられる自分にも、分からない事がある。
『全知』ではあれど、全てにおける『理由』へ至るまでは余地が無い。
何者かに、それを許可されていない。
例えば。
何故、猫はあんなにも可愛いのか。
何故、彼等は遠く離れた場所、完全に隔離した情報さえ抜いてしまえるのか。
何故、人間達は争い、奪い合うのか。
何故、エルフの持つ杖は、あれほどまでに硬いのか。
何故、くしゃみと咳が同時に出た時、自分は深刻なダメージを受けるのか。
何故、仁生 薫の母親は、『黄金のヴァイオリン』を所持しているのか。
何故、月曜日の雨は、センチメンタルな気分にさせるのか。
何故、この宇宙の外周部分は、少しずつ温度が上昇しているのか。
何故、夏のビーチは人間達の知性を低下させ、開放的にするのか。
何故、ネイテンスキィ・リッド・カーノンは、同僚を殺したのか。
何故、ブリティッシュ・ロックには、一抹の哀しさが漂うのか。
何故、評議会の議員達は皆、《位階》を持たないのか。
何故、四ツ打ちドコドコのクラブサウンドは、自分を高揚させるのか。
何故、クライス・ランベルは恋仲の血吸い鬼と会う度、歯を数本折られるのか。
何故、寝る前にコーヒーを飲んだのに、眠れるのか。
何故、此処にいるドラゴンは、XXXXXXXなどを欲しがるのか。
───ああ。
何故。
何故なのだ。
考えることで、ぞろぞろと表面がうねり。
悩むことで、ぼたぼたと溢れ落ちる。
そして、悩み過ぎれば。
遠い遠い《地球》という惑星で、ハリケーンが発生するらしい。
その理由も自分には、分からないのだが。
幸か不幸か、『悪いのは自分』ということだけが分かる。
───溜息をつき、XXィラーXXワルツは、その喉を潤そうとした。
確かまだ、『あれ』には手を付けていなかった筈だ。
血吸い鬼から捧げられた『供物』。
特に欲しい訳でもないのだが、一応は受け取ることにしている『対価』。
石皿に満たされたそれに被さり。
ゆっくりと自分の形状を変化させ、 赤い液体を啜り上げる。
───・・・・・・??
どうしてか、昔に飲んだものとは少し、異なる香りが。
味がした。
それは、量にして一滴の半分の、そのまた半分くらい。
───何故??
───何故なのだ??
新たな疑問が、生まれた。
そしてXXィラーXXワルツの思考は、またもや深い海の底へと沈んでゆく。
ぞろぞろと、うねり。
ぼたぼたと、溢れ落ちながら。
───何故───




