349話 気遣う 04
「───俺のほうからも、宣言しておく。
以降、キース・マクドガルは正式に、うちの一派だ」
「・・・わかった」
「手出しすれば敵対行為と見なし、必ず報復する。
いいな?」
「うん」
特に神妙な、というわけでもないが、若干は真面目な顔で頷くリーシェン。
まあ、悪意を持ってキースを弄んだんじゃないなら、勘弁してやる。
そうでなきゃ、応接室から上空へ『強制転移』。
そこで思い切りブン殴ってやるつもりだったぞ。
降格した俺では、負ける可能性が圧倒的に高いが。
───ともかく、争い無しで収まるなら、そのほうがいい。
ただ代わりに、用意しておいた『あれ』を本当に出す事になっちまったな。
「焼けた巣は、どうなったんだ?」
「ドラゴンの火は、かんたんに消せない。
わたしもおどろいて、対応がおくれた。
でも、もうなおした。
あれは『共用巣』だし、こべつの巣は、ぶじだった」
「───そうか。
まあ、そっちも大変ではあっただろうから───持って行けよ」
異空間の『財宝部屋』に手を突っ込み、紙の手提げ袋を取り出す。
「・・・!!これ、《YOSITAKA》の!!」
薄茶色の袋に印刷されたロゴを見て、リーシェンの目付きが変わった。
「おう。限定品の、『特上・イマガワヤキ』。
それも、一番大きいサイズのを詰めてる。
普通は3ヶ月以上前に予約しなきゃ、買えないが。
今回は伝手を頼りまくって、何とか購入する事が出来た」
「!!!」
「お前の妹達8名に、5個ずつ。計40個な」
「まって。けいさんが合わない」
「ああ?」
「わたしのぶんが、ない!」
「あるわけねぇだろう、馬鹿!
キースを連れて行ったのは、お前で!
妹達の監督責任も、お前だろうが!」
「う」
「とにかく、これを渡しに行け。
途中で中身に手を付けるなよ?
開けたらすぐ、俺に分かるようにしてあるからな?」
「う」
「いいな??」
「・・・うー」
───こりゃあ、駄目だな。
半分も納得してない感じだ。
こいつ絶対、開けて食べるぞ。
くそっ。
仕方無ぇ。
うちの皆で食べる予定の───俺の分を出すしかないか!
「見るだけ見て、食えないってのも殺生だ。
1つだけくれてやるから、ここで食べていけ」
「やった!!ドラゴン、ばんざい!!」
「袋のほうは、ちゃんと渡せよ?」
「うん!!」
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後日。
アジトに俺宛の手紙が届いた。
”わたしたちは、ドラゴンで遊びません。
わかりにくいギャグも、けっしてやりません。
これからは、なかよくしたいです”
───うむ。
つたない文字だが、お嬢様達の反応は悪くないようだ。
子供相手でも、こちらの誠意は伝わったらしい。
───だが、問題は最後の一行。
”おいしいお菓子をありがとう、ドラゴンのおじさん!”
リーシェン、お前。
俺の事を『おじさん』と説明しやがったな!?
『お兄さん』だろうが、どう考えても!!
自分の見た目が幼いからと、いい気になりやがって!!
──────ふう。
落ち着け。
深呼吸、深呼吸だ。
けっして些細な事ではないが。
断じて、ないが。
今は、これにこだわっている場合じゃあない。
俺は忙しいのだ。
キースが正式にうちの一派となった以上、悪魔に関しての説明をしなくては。
というか、まずは『ドラゴンが悪魔である』事からだな。
その上で、ミュンヘンの共同体に公表する。
奴自身が、悪魔としてやっていけるだけの。
いざという時の戦闘力とかも、底上げしてやる必要があるだろう。
そういった事は、面倒でも奴の血縁者である俺がやるしかない。
───まあ、キースの体調がここ数日で回復してきたのが、幸いか。
ステーキとか肉をガンガン食わせても効果が無く、焦ったんだが。
あいつの食事に少し俺の血を混ぜてみたら、覿面に効いた。
みるみる血色が良くなりやがった。
いやあ、ドラゴンは凄いな。
万能だ。
思い付いた事は、何でもやってみるもんだよ。
うん。




