348話 気遣う 03
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「───お前、やってくれやがったな?」
腹の底から出した声と共に、睨み付ければ。
少女はフォークを持つ手を止め、きょとんと首を傾げた。
「・・・バレスト、なにか、おこってる?」
「ヴァレストだ。
怒ってるさ───大変に御立腹だ」
「そう」
『そう』じゃねぇだろう、お前!
分かってんなら、平然とダークチェリーパイ食ってんなよ!
呼び付けたのはこっちだから、一応提供したけども!
「何で、キースの奴を攫いやがった?」
「さらってない。蜘蛛を見せたげる、って、約束したから」
「じゃあ、見せるだけでいいだろうが!
あいつから聞いたぞ?
巣に貼り付けて、卵を産み付けようとしたんだってな、ええっ!?」
「あびさる・すぱいだーは、じぶん以外に卵を、さわらせない」
「ああ?」
「メスが卵をかかえて、巣でまつ。オスが狩りをして、巣にはこぶ。
ゔぁれすと、勉強ぶそく」
「お前、そんな嘘で誤魔化せるとでも」
「すぐバレる嘘なんか、つかない。
疑うなら、しりあいの蜘蛛にきくといい」
全く動揺を見せず、もしゃもしゃとパイを咀嚼するリーシェン。
え───えぇ??
マジで??
「や───いや、でも!
だったら何で、あいつを巣に貼り付けて」
「あれは、あびさる・すぱいだーの、『鉄板ネタ』」
「はぁ!?」
「ぜったいうけるはずのギャグなのに、キースが少しも、笑わないから。
わたしたちは、とてもあせった。
どこでやめていいのか、分からなくなった」
「──────」
「あのギャグは、”それ、ベッコウバチだし!”、とか。
”みなさん、蜘蛛ですよね?”、ってつっこんでくれないと、おわれない。
とても、こまる」
「分からねぇよ!!そんな身内ネタ!!」
「せいいっぱい、もてなしたのに。
ドラゴンに変身して、ぶれすをはかれた。
巣がやけて、可愛い妹達がみんな、わんわん泣きだした。
大変なめいわくだから、いしゃりょうを請求したい」
「さも被害者みたいに言うな!
迷惑したのは、キースのほうだろうが!」
「ほうていで、あらそう」
「やかましい!
あれからキースはな、トラウマになってんだぞ!?
それなのに、リハビリでデカい蜘蛛を飼い始めてだな!
”蜘蛛を嫌いになりたくないんだよ、俺”、とか言ってんだぞ!?」
「・・・・・・」
「それでも、微塵も心が痛まねぇか、お前は!?
ええっ!?」
「・・・・・・」
リーシェンが、かたん、とフォークを置いた。
勿論、食べるのをやめたのではない。
全部食べ終わったからだ。
「・・・今回のこと、しゃざいする。
わたしが、悪かった」
「──────」
「今後、キースにてだししない・・・やくそく、する」
「──────」
「・・・あと、おわびに今夜、わたしがとくべつなサービスを」
「断る」
「だいじょうぶ。
ろりこんじゃなくても安心、すぺしゃるもーどで」
「ノーサンキュー!!」




