344話 白昼怪奇 Extra 03
「お前は『学習方法』というものを、正しく理解している」
ゆっくりと《お御足》を組み直しながら、マギル講師が言う。
「私の講義とは異なるが、もしも教科書のある授業を受ける場合。
所謂『予習』『復習』を、決して行ってはならない。
───その理由は、分かるな?」
「はい。
予習は、当日の学習意欲と集中力を奪う上、2回同じ事をやる分、無駄です。
そして復習に関しては。
運動と違い、思考活動における反復練習に、何のメリットもないからです。
持久力も根性も、全く向上しません。意味がありません」
・・・そう。
これ、殆どの人間が無意味な事をやっている。
特に、復習。
”憶えている?””うん、大丈夫”という、ただの確認作業に囚われて。
勉強と称し、下手すると半分くらいの時間を費やして。
それで”こんなに勉強したんだ”、と自己満足してしまう。
自分は記憶力が良くない?
だから、教科書を見直さないと?
ところがね、人間の記憶力って侮れない。
実は、憶えていないつもりでも、意外に憶えちゃってるものなのだ。
普通、掛け算の九の段を毎日呟いたりはしないでしょ?
その理由は、もう憶えているから。
『本当は憶えてしまっているもの』を、確認してはいけない。
憶える必要があるのは、『憶えていない部分』だけだ。
何度も何十度も確認作業を繰り返すのは、ただのロス。
授業が進めば進むほど、それをする部分が増えてしまう。
そんな事をやってる間に、《本物の勉強家》は楽しんでいる。
映画を観に行って。
カフェでお茶して。
授業とは関係無い書籍を読み、新しい知見を得ている。
ノートを取る際も、黒板の丸写しは絶対駄目。
『今は憶えられない部分』だけ、書く。
それを寝る前に5分くらい眺めて、憶えたら消す。
これこそが、『正しい復習方法』。
「その通りだ。それが出来る者が一般的に、《頭が良い》とされる」
あたしの解答に対し、満足気に頷くマギル講師。
「そして。そこで止まるなら、一般の範疇から出られないが。
教科書も参考書も無い領域、自分だけの『勉学』へと踏み込み、進む為には。
更に2つの要素が重要となる」
真面目な表情で、講師の頭がぐるり、ぐるり。
「効率的で公正な検証方法を随時、的確に作成し続けること。
どこまでを疑い、どこからを確定真実として扱うか、の線引きだ」
「実際、あたしの時間の1/3は、検証手段の策定です」
「正に。そこを疎かにすれば全てが崩れ、偽の確定真実を掴まされる。
《思考的進化》の方向は、自らが調整、決定しなけらばならない。
暗闇を切り開き、諦めることなくその努力ができる者。
私から見てカオルは、正しく理解し進んでいると言える」
「多分、ブレイキンとエイグラムも、あたしと同じタイプですよね?」
有り難い言葉を貰って、嬉しくなって。
その幸せをちょっと『お兄ちゃん's』にも分けるべく、パスを送る。
「そう、そうなのだ。
この2名は、私の配下の中でも群を抜いて優秀だ」
ブレイク達の顔が目に見えて、ぱあっ、と輝いた。
ふふ。
どうよ?
リトルシスターも、いい仕事するでしょ?




