343話 白昼怪奇 Extra 02
「───ふむ───前回指摘した箇所は、修正したか。
反応制御の切り替えは───なるほど───」
あたしの自室には当然、ベッドがあって。
今そこに腰掛けていらっしゃるのは、マギル講師だ。
月イチ講義の時と同じ、OL風なスーツとタイトスカートな姿。
よし、後で講師が座った所にダイブして顔を擦り付け・・・げふん、げふん!
そして、あたしはと言えば。
床に置いた『人類を破滅させるクッション Extra Plus』に座り込み。
講師の《お御足》を観賞・・・げふん、げふん!
おとなしくコードの講評を聞いているんだけども。
「───フィードバック処理のオフセット値に、若干の疑念を感じる。
添付されている統計データを見るに、偏りがあるな」
びしり、と痛いトコを突いてくださりながら。
マギル講師が、揺れている。
ぐらぐらと、首から上が。
地球の公転軌道みたいに回っている。
”ちょっと・・・いったいコレ、どうしちゃったの??”
ベッドの横に立つ、2名。
両手を後ろに組み直立不動の『お兄ちゃん's』に、《グループ秘匿通信》だ。
”それがよー、昨日の仕事終わりにな。
『焼酎という酒は、特別に依存性の高いものなのか』、って訊かれてな?”
”『いやいや、ただのアルコールですよ』、と答えたんだけども。
今朝、俺らが気付いた時にゃもう、酒瓶抱えてこうなっちまってた”
”ええっ!?酔ってるの?お酒臭くは・・・ないけど”
”言っとくが、マギル様は俺らより酒豪だからな?
まあ分解自体は、してるっぽいが。何かおかしな反応を起こしてるな”
”仕事になんねーから、ボスから『今日は休め』って言われたんだけどよ。
どうにもこう、じっとしててくださらねーんだわ”
「───つまり、直前に指定したパラメータを───聞いているのか、カオル?」
「は、はいっ!!」
慌てて、お返事。
何だかなぁ。
ゆらゆら頭を回している講師を見てると、あたしまで同じようにしたくなる。
まるで、催眠術だ。
「これは───下層レイヤーに低出力専用の制御を組み込んだか。
ここのフィルター部分は、非常に良く出来ているな」
「!!有難う御座います!」
ええっ!?
褒められちゃった!!
それも、『非常に良い』って!!
講師から褒められたのって、初めてだよ。
これは純粋に嬉しいなー。
「指摘した部分以外は、特に問題は無いだろう───以降も、精進するように」
「はい」
プリントアウトしたコードが返され、受け取る。
「───カオルは、とても優秀だな」
「・・・え」
予想をもう一度超えてきた言葉に、思わず顔を上げれば。
マギル講師が、優しく微笑んでいた。
繰り返すけども。
『優しく微笑んでいた』。
・・・いやいや、何これ??
本当に、どうしちゃったの!?
あたしの心臓、バクバクしてるんだけど!?




