342話 白昼怪奇 Extra 01
【白昼怪奇 Extra】
『魔法使い』としての、あたしは。
少しずつだが、確実に前へ進めている。
───それと同時に、殆ど進んでいない、とも言える。
術式の圧縮効率は、2%上昇させた。
感覚から自動制御部分へのフィードバックも、コンマ1秒縮めた。
それは確かに、《成果》だ。
ほぼ予定通りの結果、進捗具合だ。
───けれど、それ自体がほんの僅かな差でしかない。
靴の爪先が前方へ、1ミリか2ミリ動いただけ。
あたしがそう思うくらいだから、悪魔からすればもっと酷いに違いない。
なにせ向こうは、『魔法の専門家』だ。
こんな《成果》は足踏みか、休憩しているようにしか見えないだろう。
正直なところ、”楽をしたい”という《誘惑》は、ある。
例えば、『AI』。
法整備より先に拡散してしまい、倫理や権利的にも問題が多い技術だが。
世間が騒ぐだけあって、有用性は高い。
でも、あたしはこれを、『判定』『制御』部分に組み込むつもりはない。
『AI』の肝は、《学習》だ。
何をどれだけ学ばせるかが、ダイレクトに質の向上に繋がる。
もし、『AI』を『魔法使い』のあたしが運用するとなると。
最終的に《学習》の為のソースとして、《悪魔のデータ》が欲しくなる。
どう考えたって”それが最高効率だ”と、行き着いてしまう。
───そうなった時点で、あたしの負け。
───それはもはや、人間である自分に屈した証明。
───手段を選ばない事とプライドを捨てるのは、別の話なのだ。
おそらくは悪魔達も、魔法戦闘において『AI』を導入することはないだろう。
どのみち、思考の速度や正確性もピカイチな連中だし。
『AI』は革新的で、素晴らしい技術。
ただし、その使い所は。
『自分が判断するべきでない』、『自分が関わらなくてよい』部分に限る。
”『AI』のほうが速いから”は、使用理由として根本的に誤りだ。
絶対に個人の感情や嗜好を入れてはいけない場面でこそ、使われるべきなのだ。
あたしは、それ以外の方法で、《あたしの魔法》を完成させなければ。
どこまで行っても『反応速度』が立ち塞がり、長期戦闘が困難な状況だけれど。
それでも、そこから目を背ける訳には───
───テンテン テレレレン テレレレ!
鳴り出したスマホを見れば、電話着信だ。
発信者は、ブレイク。
ああ、今日はあたしが書いたコードを引き取りに来る日だからね。
「・・・もしもし?」
”おう、カオルか?今からそっちへ、行くんだけどもよ”
「はいはい、準備出来てるよー」
”ちょっと事情があって、俺らだけじゃなく、マギル様も行くから”
「・・・え、ウソ!?やったああーーー!!」
”お前、喜んでる場合じゃねぇぞ?
今、こっちは───や、駄目ですよ!それ持ってくのはナシで!
ちょっ、待って!ホント駄目ですって!!STOP、STOP!!”
「???」
”───ああ、その!とにかく、そっちへ向かうから!ヨロシク!!”
ぷつり、とブレイクの声が切れた。
───え??何??
めっちゃ慌ててる感じだったけど。
一体、何だっていうの??




