340話 白昼怪奇 03
「あたし、姉妹の中で、末っ子なんです」
「へえ」
「いつも姉さん達に子供扱いされて、からかわれて!
だから、一番早くに結婚して、見返したくって!」
「なるほど」
さっぱりだ。
何言ってるの、この子。
そういうおかしな事に私を巻き込まないでほしい。
「結婚したら、見返せるのかい?」
「それはもう!
巣の中央に貼り付けて、見せびらかすんです!
姉さん達みんな、涎を垂らして悔しがる筈です!」
「───うわあ」
えげつないなぁ。
というかね。
それ聞いて”YES”って言う男性、いると思うの?
最終的に食べられるとか、卵を植え付けられるような雰囲気だしさ。
「あのさぁ。日本にだって、悪魔は沢山いるんでしょ?
人間より悪魔のほうが、結婚相手として相応しいんじゃないの?」
蜘蛛のお嬢さんから私と人類を救うべく、頑張ってみたのだが。
「そこで敢えて『人間』の旦那様だからこそ、インパクトがあるんですよ!」
うーーん。
駄目かもしれないなぁ。
これ、どうにか私が切り抜けても、知らない所で誰かが犠牲になりそうだ。
「ねぇ、藤田先生」
「うん?」
「あたし、先生のコト・・・結構いいなって思ってるんですよ」
はあーー。
君ねぇ。
はっきり言って───いや、言わないが、『演技力』ゼロだね!
今の子達は知らないだろうけど、昔の映画女優さんとかね。
もう本当、凄いんだよ?
台詞どころか、息遣い一つで皆が虜になるんだよ?
そんな中途半端な声色じゃあ、オジサン、騙されてあげられないなぁ。
「だから、先生」
カチャ、と車内に響く音。
「ちょっと、何してるの。シートベルト外しちゃ」
「せんせぇ〜〜〜」
「こらこら、運転中だよ。危ないからやめなさい」
左の後部座席から、手が伸びてくる。
首筋を擽る。
これはもう、いよいよもって懲戒解雇かな?
「・・・あれ?・・・何これ?」
「──────」
「何か術式がいっぱい、くっ付いてる・・・」
「それ、触っちゃ駄目だからね?」
「もしかして先生、他の悪魔の『お手付き』なの??」
「まあ、なんというか。そうだねぇ」
「えーー!あたし、ヤだなぁ、そういうの!」
「私の事は、すっぱり諦めてくれると有り難いんだけど」
「うわー、ムカつくーーぅ!
外しちゃえ、こんなの!」
「いやいや、触っちゃ駄目だってば」
「えい、えい!このっ!!」
「本当にやめなさいって」
本気で身をよじった、その時。
───バンッ!!
突然、車の天板から物凄い音がして。
ぐらり、と車体が揺れた。
「え??」
硬直する蜘蛛のお嬢さん。
ほぉら、言わんこっちゃない。
だから警告したのに、もう。
───バンッ!!
更に大きな音、強い衝撃。
「ひッ・・・い!!」
あーー。
これは結構、まずいなぁ。
こういうパターンは初めてだぞ。
かなり本気みたい。
ハンドルをしっかりと握り締め、周囲の状況を確認する。
後続車、無し。
対向車、遠くから接近中。
その後ろにも、もう1台か───。




