32話 無限の国 11
「───おい、爺ぃ・・・」
「おっと!バレたかの?」
「何でお前が、天使の力を───『法術』を使える!?」
「儂が、天才じゃから?」
「ふざけんじゃねーぞっ!!」
「・・・昔々、まだ儂が若く、夢と希望に満ち溢れていた頃」
「要点だけ言え」
「・・・嗚呼、思えば、あの晩も今宵と同じく」
「要点だけ言え!!」
「ポーカーで、天使から巻き上げたっ!」
───がくり、と力が抜けた。
”・・・解析、出来るか?”
”理論上は可能ですが、すぐには無理です。
年単位でかかる上に、『これ』を突破しても、次の障壁が””
”くそっ・・・!!この爺ぃ、イライラする!!”
「ほいっ!しゅ〜〜りょ〜〜う!」
「・・・負けました・・・」
「儂の〜〜勝ぁ〜〜ちぃ〜〜!」
しょんぼりと項垂れるランツェに。
容赦無く浴びせられる、勝利宣言。
「まあ、絵の事はすっぱり、きっぱり、忘れるこった!」
「・・・・・・」
「んで!!それじゃあ1枚、描かせていただこうかのぅ!」
「・・・はい」
「よぉ〜〜し───ふぅ〜〜む───んん〜〜む」
何やらブツブツと呟きながら、爺ぃがランツェの周囲を回り始めた。
少しでもおかしな真似をしやがったら、と身構えるが。
何だ・・・こいつ。
コミカルな動作の割には、意外にも真剣な表情をしてやがる。
俺は音楽も絵画もやらないが。
アーティストってのは、スイッチが入るとこうなるのだろうか。
自然と、目が。
爺ぃの動きを追いかけてしまう。
つい先程までとは、空気の重さが違う。
緊張感が違う。
「・・・のう、天使さんや」
ランツェの正面、斜め左。
3歩離れて立つ、爺ぃ。
「少ぉし、肩をはだけてくれんかの?」
「はい」
「おい!!いい加減にしろよ、クソ爺ぃっ!!」
「そう、もう少し、もう少ぉし───そうそう」
「ランツェイラも、『はい』じゃないだろ!?」
慌てて後ろから、ランツェの着衣を正す。
「・・・駄目なんじゃよ。天使さんは、上品すぎて駄目なんじゃよ」
「駄目なのは、手前ぇのアタマだっ!!ポーズの指定は約束してねーぞ!
『このまま』で、さっさと描け!!」
「ああ、もう描いたよ」
「───約束が違うぞ! 普通に《か》く、って言った筈だ!!」
「普通に描いたとも」
「何時だ?筆も出さずに」
「儂は、確かに描いたさ。
『心の中のカンバスに』、な───」
胸に手を当て、とびきりの笑顔。
そして、ウィンク1つ。
───バキッッ!!
隣にいるマギルから、何かを握り折るような音が上がった。
・・・ああ。
気持ちは、良く分かる。
俺も、内なる破壊衝動が目覚めそうだ・・・ッ!!
”マギル”
”はい”
”条件が合えば、だが───『アレ』を使う”
”・・・よろしいのですか?”
”こいつになら、使っても良心が傷まない自信がある”
”なるほど”
”条件が合わなければ───悔しいが撤退だ。
それでいいな?”
”・・・了解です”




