335話 家族の絆 05
「私、兄様は御自分で女性を捕まえられないタイプだと、思ってました!」
おい。
その言い回しには、聞き覚えがあるぞ。
うちの妹に何か、余計な事を喋ってないだろうな。
熱血皇帝。
「兄様は、どんな女性が好みなんですか?」
「どんな、って───いやいや。
俺の好みを知って、どうすんだよ」
「父上が選んだ婿でも、ただ『お飾り』になってもらうだけでは済みません。
夫婦関係を円滑にするにはやはり、好かれる努力もしなければ」
「まあ、そうだな」
「ですから、兄様のお話を聞いて参考にしたいな、と」
妹よ。
それなら、つい先程お前が言った『兄様は御自分で』の下りは何だったんだ?
これは、俺が非常に特殊なタイプと知った上での狼藉か?
ええ??
ただ───そうは思うのだが。
『男』というものを知るにあたり、兄を頼ろうというのは悪くない。
何か、こう。
妙な嬉しさがある。
いや。
もしかして、そういう所までも計算されて??
くう!
可愛いやつめ!
「───兄妹でこういう話をするのは、ちょっと気恥ずかしいが。
まあ、ええと。
俺は、自分の意見やこだわりをハッキリ主張できる女性が好きだな」
「主張、ですか?」
「ああ。
言葉にするかどうか、じゃあないんだ。
何も言わなかったとしても、態度でそれを示すことは出来るだろう?」
「そうですね」
「男女の関係において、俺には確固たる『自論』がある。
《恋愛》とは、伏せたカードが何なのかを探る駆け引きではなく。
カードを見せ合いながら、相手のそれを尊敬してゆく《相互研鑽》。
故に、無価値な恋愛など存在しない。
失意の涙さえ己の海を潤し、新たな可能性へ旅立つ為の糧となる」
「・・・まさか、兄様から・・・こんな言葉が・・・」
「誰だって、譲れない大切な『思い』を持ってる。
けれど、それを完璧に貫き通せる奴なんて、いやしないんだ。
どうしても『思い』を曲げなきゃ進めない道の手前で。
自分のそれを打ち砕いてしまった分厚い壁を見つめて。
途方に暮れている相手に、自分のカードを貸してやる。
そうすることが可能な位置に身を置き、励ます。
───それこそが、パートナーだ。
楽しい時間を共有するだけじゃなく。
互いが互いを、理不尽な現実に負けさせない為。
諦めさせない為。
『尊敬すべき心』を守り合う為に、肩を並べるんだよ」
「・・・・・・」
「アドリー。
そうは言うものの、俺だって大したモンじゃないぞ?
情け無いが俺の生き様は、幾多の失敗から成り立ってる。
惚れたエルフは、死ぬことが分かっていながら背を降りて。
最後に万感の口付けをしてくれた。
惚れた人間は、人生を終える夜にこの手を振り払い。
俺が何を間違えたのかを、微笑みながら教えてくれた。
だから、次は。
次こそは、って俺は生き続けている」
「・・・その『次』というのが。
兄様が今、お付き合いなさっている方ですか?」
「なさっているかどうかは、分からんが。
まあ、その───好きでは、ある。
向こうも、俺が何かしでかす前に、ブン殴ってでも止めてくれる。
───くらいには好意を持ってくれてる、と思う」
「・・・いいなぁ、その彼女さん」
「滅茶苦茶、おっかないんだけどな」
美しい吸血鬼の顔を思い浮かべ、苦笑した。
そして。
「でも、絶対に───『負けさせたくない』」




