表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
336/743

334話 家族の絆 04



カタン。


テーブルにカップとソーサーを置くと、アドリーは頷き。

静かに一口飲んで、小さく息をつく。



「5年ほど前から衰弱が激しく、意思の疎通がとれない状態でした。

”これ以上の延命は意味が無いだろう”、という父上の判断で・・・そのまま」


「自然死、か」


「はい。

10世紀に渡る尋問の果てに、ですけれど」



出窓の横の壁にもたれて、俺もコーヒーを一口。


なんだろうな。

普通に淹れたのに、やけに苦く感じる。



「───お袋は?」



無言で数度、横に振られる首。


まあ、そうだろうな。



「結局、何も分からずに終わりか」


「”麻薬の名前は、『9分間(ナインミニッツ)』”。

”男が、売った”。

”母上がそれを、買った”。


これだけ長い時間をかけて引き出せたのは、たった3つだけです」


「どうにも納得がいかねぇよ。

この結果も、どうしてお袋が『9分間(ナインミニッツ)』に手を出したのかも」


「・・・・・・」


「効能は、誤解していたんだろうさ。

”9分間だけ効くんだ”、と。

売った男のほうも『新商品』だというだけで、詳しい知識が無かった。

麻薬のレベルを超えた危険物とは、思ってもいなかった」


「・・・・・・」


「だが、それにしたってだ。

何故お袋は、非合法な『(ブツ)』に頼ろうと考えた?

たとえ一時(いっとき)でも何を忘れたくて、何から逃げ出したかったんだ?」



疑問系で話してはいるが、答えはすでに出ている。


ユーニスにも言った事だが、俺はもう子供(ガキ)じゃないのだ。

過去を振り返れば振り返るほど、思い当たるフシがある。


何で当時、頻繁に親父から頼まれて地上へ《お使い》に行かされたのか。

その間に屋敷では、何が行われていたのか。



「『原因』は、まさしく親父だろうよ。

そして───俺は。

《地下牢の男》から記憶を消したのも、親父だと思っている」


「兄様、それは!」


「だって、あんまりにも不自然だろう?


(おろ)し元》が誰なのか知らない。

幾つ卸されたかも、全部売り切ったのかも記憶に無い。

ただ、誰に売ったかだけ憶えている。


そんな都合のいい話があるかよ?」


「・・・・・・」


「記憶を消す魔法は、非常に使い方が難しい。

目的の部分だけ上手く削除したつもりでも、すぐに露呈するぞ。

掛けられた相手自身が、空白を違和感無く埋める為に『頑張ってしまう』。

《一番自然な正解》を復元してしまうからな。


だから、麻薬絡みの組織が男を『切る』なら。

一部じゃなくて、全部の記憶を消すはずだ。

一般常識とか生活習慣とか以外を、バッサリ全て消し去る。


いや。

そもそも、殺したほうがもっと早くて確実だ」



どうにも我慢が出来なくなり、タバコに火を付けてしまう。



「地下牢に放り込む前の段階で、親父が奴の頭の中に細工した。

消去して空白にするんじゃなく、『暗闇』と差し替えたか?

得意の能力を、上手く使ったもんだな」


「兄様、もう()しましょう・・・身内を疑うのは・・・」



顔を歪め、今にも泣き出しそうなアドリーを見て、激しく後悔。


これは何の証拠も無い、『俺の想像』に過ぎない。

ただの与太話。


そういうのを、これからブランフォール家の新頭首になる妹にぶつけるのは。

けっして兄として、褒められる事ではなかった。



「───悪い、もう言わない」


「・・・・・・」



今更どうこう考えたって、過去は変えられない。

お袋が元に戻ることもない。


俺だって、そこはもう諦めているのだ。

ただ、真実を知りたいという気持ちだけは───今も───



「───領主の就任式は、盛大にやるんだろ?

俺もちょっと顔を出しに戻るかな?」



強引に話題を変える。

というか、あんまり変わっていないかもだが。



「・・・領民への周知もありますから、式典は行いますけれど。

そこまで派手な事はしないですよ?」



ややぎごちなく、それでも乗ってくれるアドリー。



「友達とか呼んで、祝賀会は?」


「正直に言えば、その友達自体がいないです。

中等学校を卒業した後は、《百年学院》と《二百年学院》ですから。

友達になりたいような相手は、いませんでしたね」



《百年学院》、《二百年学院》。


これは人間界で言うところの、超有名難関大学にあたる。

地獄における全ての分野の学問を、その名の通りの年数を掛けて叩き込む場所。

もはや拷問じみた、至上の教育機関。


どっちも卒業するとか、合計で300年だぞ?

やってられねぇよ!


しかし、嫌でも行かされるのが、大領地の跡継ぎ達だ。

学歴として素晴らしい箔が付くから、親がそれを望む。

彼等にとっては領主になる為の、最終試練みたいなもの。



「やっぱり《学院》は、性格に難があるような奴が多いのか?」


「『鼻持ちならぬ』、という感じですね。

それに、どうしたって男性ばかりなので、下手に仲良くなると後が困ります。

嫁ぐ訳にはいきませんし、向こうが『入り婿』になるのも無理でしょう。

名家の嫡男ばかりですから」


「ああ、なるほどな」


「でも、私の結婚相手に関しては、心配する必要がありません。

いずれ父上が、適当な男性を連れてくるでしょうし」


「むう───」



お前、それでいいのか?

と言いたいところだが。


この展開はちょっと、あやしいぞ。

俺のドラゴニックなセンサーが、警告音を発している。


心当たりのあるキーワードが出て来たし。

素早く2本目のタバコに火を付けるべきだな、これは。



「ところで・・・兄様は、御結婚なさらないのですか?」


「!!」



ほら見ろ、これだ!

思った通りだよ!



「いや───なさらないことも、ない───」


「ということは、意中の方がいらっしゃるんですね!?」


「───いらっしゃらないことも、ない───」



途端にキラキラと目を輝かせる、アドリー。



やばいな。

これは、変なスイッチが入ってしまったようだ。


逃げ出したくなってきたぞ。


ここは、俺の『隠れ家』なのに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ