332話 家族の絆 02
「これはまた、おかしな事を仰る。
昔も今も、ずっとブランフォール家に仕えていますよ?」
「・・・俺は、『誰に』って訊いたんだぜ?」
「勿論、ドルジット様に」
「ちっ!平気な顔で、嘘を吐きやがる」
訳が分からない、というように首を傾げるユーニス。
当然、これも『嘘』だ。
「あの用心深い親父が、《逃し屋》を自分から遠くへ離すもんか」
「来ていらっしゃるんですよ、すぐそこまで」
紋様を刻んだ長い爪の指先が、風を受けて揺れる白いカーテンを指す。
「いや、それも無いな。
領地内はおろか、屋敷からも滅多に出ない小心者だぞ?
地上へ来るなんざ無理も無理、大無理だよ」
「そうすると、『答え』は?」
「・・・《代替わり》したんだろう?
やっと隠居して、家督をアドリーに継がせたか?
それに伴って、お前の主も変わったってことだ」
「どうして、変わる必要があるんです?
そのままドルジット様をお守りすればいいでしょうに」
「元よりお前が結んだ契約の『逃がすべき』対象は、親父じゃなく。
《ブランフォール家の頭首》だった・・・なんてのはどうだ?」
「ふむ、見事な推察───正解です。
いやはや、なんとまあ。
『おつむ』のほうも御立派になられましたね、坊っちゃん!」
「だから、”坊っちゃん”はやめろっての。
それで、アドリーのやつもこっちへ来てるんだろう?
最初から一緒に入ってくりゃいいだろうに」
「いくら坊っちゃんのアジトでも、それは駄目ですよ。
安全が確認されない限り、依頼者を行かせる訳にはまいりません」
「胡散臭いほど仕事には真面目だな、お前」
「坊っちゃんだって、女性を口説く時には真剣でしょう?」
「・・・・・・。
とにかく、ここが安全なのはもう分かっただろ?
そろそろアドリーを呼んでやれよ。
暑い中、外で待たせるのは可哀想だろうが」
「いえいえ。
そう思うのなら、坊っちゃんのほうから来ていただければ」
「ああ?」
「ちょっとここではできない、大切な話があるそうですよ?
兄妹でじっくり語り合えるような、秘密の場所などあれば良いのですが」
「お前なぁ、そういう事はもっと早く言えよ!」
慌てて立ち上がり、姿見の前でネクタイを締め直す。
ええと、エチケットブラシは、何処にやったっけ。
何か、やたら緊張してきたぞ、おい。
「妹といえども、女性。
本能的に気合が入りますね、坊っちゃん!」
「うるせぇよ!」




