328話 ↓る者、↑る者 04
「どれほど技術が進歩しようと。
如何に新しい規格が生まれようと。
結局は、それを扱う者、即ち『人間』次第。
そう思わんかね?」
なんとなくマトモな、当たり前の事を述べる声。
特に反論したい点は、無いな。
というか、あったとしてもコイツとそれを論じ合う気力が無い。
───今、僕に御高説をたれていらっしゃる悪魔は。
───ノート型のPCである。
もう一度、言うが。
───ノート型のPCである。
いや、あのさ。
僕も結構、召喚歴は長いし。
形容し難い『ナリ』の奴もこれまで、沢山見てきたけどさ。
《ラップトップPCの悪魔》って、何だよ!?
お前、30年前に発売されました、みたいな骨董品クラスに見えるが。
いったい、どこの国のメーカーに製造された《悪魔》なんだよ?
とっくに保証が切れてるんじゃないのか?
ていうか、どこから声を出してんだ?
スピーカーか?
低音域がばっさりカットされたようなチープな音質は、そのせいか?
ツッコミたい事が、山ほどあるんだが。
こんな時シンイチローなら、こう言うんだろうな。
「───そうだね。まったく、その通りだよ」
「薄型、軽量、スタイリッシュを謳う陰で、犠牲になったもの。
メモリもバッテリーも交換不可となり、嘆かわしい限りだ。
新商品を売る為の消耗品となっている事に、ユーザーは気付いていないのか」
「───そうだね。まったく、その通りだよ」
「そして、使う側も。
最新のものを追うあまり、基本を疎かにするのはいかん。
大学まで出て社会人となったのに、図表の1つも組めないのはどうなんだ?
フリック入力は得意でも、タッチタイピングが出来ないのは何故なんだ?」
「───そうだね。まったく、その通りだよ」
ああ。
言ってる事は全部、正論だ。
昨今、問題になってるよな、それ。
でも、何で僕がそういう『愚痴』を聞かされなきゃいけないんだ?
どうせならもっと、面白い事を喋れってんだよ!
お前みたいなのがサムライ狐と、どうやって知り合った、とか!
そっちのほうが気になるだろうが!
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そして、次。
四体目。
「───ッ!?
な、何で、陳さんが!?」
「ああん?マーカス?てめー、何やってんだ??」
「いや、その!これは───ちょっとした実験で!」
ここへ来てまさかの、知り合いか!
どうして、PCから中華料理に繋がるんだよ!
もう、さっぱり関係が読めないよ!
今度食べに行く時は、何か手土産が要るだろうな、これ。
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五体目。
麦藁帽子を被った、日に焼けたおっさん。
「オレが聞きたい事は、1つだけだ。
お前───トマトは、好きか?」
「え・・・?結構、好きです、ね」
「どんなタイプのトマトが好きなんだ?」
「タイプって、あーー、その。
最近主流のより、小さい頃に食べた・・・固くて青臭いやつ、かな・・・」
「おう、なかなか言うじゃねぇか。
───お前の人生に、トマトの祝福があらんことを!」
え??
どんな祝福だよ、それ?
無料でケチャップが使い放題になる、とか??
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六体目。
「あ、マーカスだ!」
「まっちゃん!?」
「なになに?どうしたの?対戦する?」
「いや───気持ちは嬉しいんだが、それはまた次回、という事で」
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七体目。
唇の上の細い髭が、くるりとカールした、痩せぎすの男。
「んんーー?これはこれは、何事ですかな?」
「ああ、ええと、その」
おい、待て。
こいつ、知ってるぞ!
初見じゃないぞ!
この独特の顔付きや声には、憶えが無いが。
何と言うか、雰囲気みたいなものは『知っている』。
絶対、何処かで会ってるはずだ。
いつ?
どういう任務で関わった??
”もういい。そろそろ、終わりにしろ”
うわっ!
頭の中、唐突に響くギリアム様の声。
ヤバい。
何かミスったのか、僕!?
それとも、単に制限時間に達した??
と、とにかく終了だ!
撤収!
みんな解散!
「───ハイ、ここで『中止』、ということで!
あーー、皆様にはお忙しいところを参加していただき、有難う御座いました。
えーー、突然の召喚に驚かれたと思いますし。
こちらの不手際や失礼も、数々あったでしょう。
バタバタと忙しない状況で、説明不足だった事も、深くお詫びします。
これから先、また皆様とは『ご縁』があるかもしれません。
どうぞその際にも御助力頂けるよう、心よりお願い申し上げます。
それでは、これにて『終了』いたします。
誠に有難う御座いました!」
《閉会の挨拶》は、アドリブだ。
早口で捲し立て、勢いで誤魔化し。
そして、一応はキッチリと頭を下げておくが。
当然、”おい、ふざけるな!”、”結局、何だったんだ!?”、と大ブーイング。
けれど、な。
ギリアム様から終われ、と言われた以上、クレームに対応している暇は無い。
こういう時に効いてくるのが、《トモダチ無限陣》のシステム部分。
「───『悪魔プーキィ』との契約を、終了する」
宣言と同時、”待て、コラ!”、”卑怯者!”、とか聞こえてくるけど。
ガン無視だ。
一体目の召喚さえ切れば、後は自動的に全ての召喚が維持出来なくなる。
一切合切、さようなら。
カワウソ、サムライ狐、ラップトップ、陳さん、トマト、まっちゃん、ヒゲ。
綺麗さっぱり、消滅だ。
───ふう。
───終わった。
ぶっちゃけ、悪魔達は不満顔というか、かなり怒っていた。
陳さんも明らかに機嫌が悪かったし。
消える直前、笑顔で手を振ってくれたまっちゃんだけが、心の癒やしである。
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そして、正座。
膝を揃え、背を伸ばし、美しく正座。
命じられなくとも、これがデフォルトの姿勢。
It's my life.である。
「───中々に、面白い見世物だった。
原理的に単純、と言ってしまえばそれまでだが、このアプローチは斬新だ」
「・・・ハイ」
決して、視線は上げない。
ギリアム様の顔を、見ようとしてはいけない。
見ても良いのは、黄金の錫杖の先端のみ。
それが僕の後頭部に押し付けられないことを、祈るばかりだ。
「七体を同時召喚───その結果については、評価しよう。
おそらく、これだけの規模の召喚を成し遂げたのは、人類でお前のみ。
発動までに掛かる労力や時間も、概ね及第点と言えるだろう」
「・・・ハイ」
「いやはや───よくも思い付き、実行してみせたものだ。
こんな、素晴らしく手の込んだ『悪魔に対する嫌がらせ』を」
「・・・ハイ」
ガツンッ!!
床を叩いた錫杖から、火花が飛び散った。
すみませんッ!!
今の『ハイ』は、間違えましたッ!!
流れ的に、思わず口から出てしまいましたッ!!
「ただし、この同時召喚は実用には未だ遠い。
その理由は───理解しているな?」
「・・・ハイ」
「一応、《合格》としておくが。
次回までに全て、改善しろ。
寝食を忘れて励み、苦痛にのたうち回れ。
そこから這い上がらねば、地獄の業火に呑み込まれると思え」
「・・・ハイ」
「───これにて、《中間試験》を終了とする。
非常に興味深く、不愉快な時間だった」
「・・・スミマセン・・・アリガトウ、ゴザイマシタ・・・」
ああ。
《合格》なのに、全然嬉しくないな。
ギリアム様、メチャクチャ怒っていらっしゃるし。
殺意を持って放たれた嫌味が、僕の胃を突き刺してるぞ。
これから先の事を考えたら、怖すぎるよ。
最終試験って、いつ頃やるんだろうか───




