327話 ↓る者、↑る者 03
《トモダチ無限陣》───まあ名称は後日、変更するかもだが。
これは、形状こそ立体的でないものの。
憧れの《立体積層型》《複数起動陣》を、僕なりに追い求めた結果。
『なんちゃって』複数悪魔・召喚システムである。
召喚陣の起動とその維持には、かなりの負担が掛かる。
具体的に言うと、結構疲れるのだ。
肉体的にも、精神的にも。
だから、単純に陣の数を増やすのは無理がある。
僕の場合だと、予想では3つ目あたりで限界か。
それも、喚んだはいいが自分はへたり込んで動けない、という状態だろう。
3つ、というのもまた微妙だ。
あんまりカッコ良くない。
複数起動と言うからには、7つ以上は欲しい。
最低でも5つはないと、見栄えがしそうにない。
───だが、現実は厳しい。
───無理なものは無理。
僕自身を鍛えて基本性能を上げて、というのは気乗りしないし。
やったところで、大した効果も無さそうで。
だから、そういう方向からのアプローチは、スッパリ諦めた。
”いかにして頑張らないか”、それだけを突き詰める事にした。
《トモダチ無限陣》の本質は、インチキである。
ズルさの塊なのだ。
一体目だけが、自前の召喚。
厳密に言うと二体目の出現までは、最初に交わした契約の範囲内ではあるが。
それ以降は完全に、悪魔様の『好意』によって成り立つ訳で。
僕からすれば、労力は通常の召喚とほぼ同じ。
召喚陣を描くのも悪魔だから、僕の『焼き付け』より早い。
確実。
”ここに描いてくださいね”、と点線でガイドラインだって示してある。
安心。
楽々。
新たに喚ばれた奴への説明すら、向こう任せだ。
僕はただ、見守っていればいいだけ。
そう。
見守って───いれば───
「むう・・・これは、何事であるか」
二体目の悪魔。
現れたのは、『狐』。
予想通り、《動物繋がり》だな。
「召喚など、手間の掛かる事を」
「あー。ええと、それはねー」
隣のカワウソが、狐の耳元にヒソヒソと『伝言ゲーム』。
大丈夫だろうか。
これ、聞き間違えで最終的に滅茶苦茶な内容にすり替わったりしないか?
「・・・ふむ・・・成る程。事情は分かった」
しばらくして、額から鼻の上まで白い傷跡が走る狐が、こちらをジロリ。
「されど、あまり付き合ってはやれぬぞ。
永きに渡り風来であった拙者だが、先日ついに『仕え』の身となった。
『主』の命あらば、すぐさま駆け付けねばならぬ故」
いや、お前。
何でサムライ言葉なんだよ。
『仕える』って、誰にだ?
動物園の飼育員か?
ショーグンは、園長か??
まあ、そこはぐっと飲み込んで、笑顔。
笑顔で通すんだ。
今の僕は、シンイチロー。
おっさんの心は、揺蕩う海の如し。
決して、ツッコミを口に出したりしないのだ。
「ああ、それで構わないよ」
「ほほう・・・中々の面構え。
歴戦の手練と見たが、済まぬな・・・拙者、名乗る事は出来ぬ」
「君との直接契約ではないから、それは仕方無いさ」
意味も無く『真名』を教える悪魔なんて、いやしない。
それに、こちらとしては名前が分かったところで、制御不能だ。
僕が召喚した訳じゃないからな。
けどさ。
歴戦?
手練??
この狐は、僕に何を感じ取ってるんだ?
絶対、勘違いしてるだろ。
「だが、今後拙者の力が必要となれば。
その際は、イチョウの葉を三枚重ね、その上に松の実を二つ置くがいい。
あと、桜餅も忘れるな。
然らば、おぬしの仕官、『主』に口利きせぬこともない」
「───御厚情、痛み入る」
おっと!
サムライが伝染ってしまった。
ええと、つまり───これ、『私的な』召喚方法を教えてくれたのか?
『真名』無しでも特定の供物を使えば、ランダムじゃなく喚べる、って?
それで、僕の再就職先は動物園か?
一応憶えておくよ、有り難く。
特務を辞めた時に備えてな。
「それじゃあ、そろそろ友達を」
「うむ・・・ここか」
サムライ狐が、『③』の点線ガイドラインに向けて前脚をかざす。
さあ次は、どんなのが来るんだ?
狐ときたら、狸?
いや、それは確かライバルだから、違うか。
召喚陣 in 召喚陣が、白く輝いて。
───現れた三体目の悪魔を見た途端。
───僕の顎は、外れて落ちそうになった。




